国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの黒谷 賢一 特任講師と野田口 理孝 准教授らの研究グループは、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所大量遺伝情報研究室の中村 保一 教授、公益財団法人かずさDNA研究所植物ゲノム・遺伝学研究室の磯部 祥子 室長と共同で、生物間相互作用のモデル植物であるベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の全ゲノム配列(全遺伝子)を解読しました。
ベンサミアナタバコは、以前より植物ウイルス等の病害応答の研究に広く使われていました。それに加え、一般に不可能とされていた異なる科の植物との接木が可能なことを、名古屋大学の同研究グループが2020年に報告しています。
このように、ベンサミアナタバコは、異なる生物間の応答や相互作用を研究する題材として非常に優れています。しかしながら、およそ1000万年前に起こった近縁植物種間の交雑により、2種の植物の染色体に由来する複雑なゲノムを持っているため、そのゲノム構造は長らく明らかにされませんでした。
本研究では、長鎖塩基配列を解読する最新の次世代シークエンス技術注1)を駆使し、染色体レベルに限りなく近いゲノム構造を明らかにしました。これにより、重複した遺伝子構成をより詳細に理解することが可能となりました。ベンサミアナタバコの有用な性質の科学的な理解がゲノム解読によってさらに加速することで、植物科学の今後の発展が期待されます。
本研究成果は、重要植物ゲノムの日本からの独自公開であり、2023年2月9日付、日本植物生理学会の発行する国際学術雑誌「Plant and Cell Physiology」に掲載されました。
・長らく明らかにされていなかったベンサミアナタバコのゲノムを、染色体レベルで解読した。
・過去に交雑した植物に由来する染色体領域を推定した。
・異科接木の成立時に発現が上昇する遺伝子群の染色体構造を明らかにした。
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注1)次世代シークエンス技術:
既知の配列情報(シークエンス)を足がかりに、それにつながる配列を個別に決定していた旧来のDNA配列解析とは異なり、数千から数百万のDNA分子を同時に配列決定可能な基盤技術。全ゲノムから作成したゲノム断片のライブラリーを網羅的に解読し、あとから各解析断片の共通部分をのりしろとしてつなぎ合わせることで、断片化する前の配列を再構築する。
雑誌名:Plant and Cell Physiology
論文タイトル:Genome sequence and analysis of Nicotiana benthamiana, the model plant for interaction between organisms
(生物間相互作用のモデル植物ベンサミアナタバコのゲノム解析)
著者:Ken-ichi Kurotani, Hideki Hirakawa, Kenta Shirasawa, Yasuhiro Tanizawa, Yasukazu Nakamura, Sachiko Isobe†, Michitaka Notaguchi†
(黒谷 賢一、平川 秀樹、白澤 健太、谷澤 靖洋、中村 保一、磯部 祥子†、
野田口 理孝†)†共同責任著者
DOI: 10.1093/pcp/pcac168
URL: https://academic.oup.com/pcp/advance-article/doi/10.1093/pcp/pcac168/7031347?login=true
生物機能開発利用研究センター 野田口 理孝 准教授
https://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~graft/