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化学

2023.05.11

特殊環状ペプチドの低コスト・高生産性・少廃棄物量合成法を開発 ~医薬品候補化合物の創出、医薬品生産の効率化に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院創薬科学研究科の社本 乙華 博士前期課程学生、布施 新一郎 教授らの研究グループは、医薬品候補として重要な特殊環状ペプチドの低コストで生産性が極めて高く、廃棄物量が少ない、しかも精製が容易な合成法の開発に成功しました。特殊環状ペプチドの代表といえる環状N-メチル化ペプチド注3)は医薬品として好ましい種々の特性をもつため、創薬標的として脚光を浴びています。しかしながら、特に6つ以下のアミノ酸からなるN-メチル化ペプチドの環化はとても進行しにくく、加えて副反応も進行しやすいことから、従来法では高価な反応剤を多量に用いて、長時間かけて反応し、しかも煩雑な精製操作を要するといった問題を抱えていました。
本研究では、微小な流路を反応場とするマイクロフロー合成法を駆使し、入手容易で安価な反応剤を組み合わせて用いることで、従来の手法と比べて遥かに低コスト、高い生産性で、廃棄物量を削減しつつ目的物を得ることに成功しました。開発した手法は、様々な特殊環状ペプチドの合成に利用可能であるため、医薬品候補化合物の創出、および医薬品生産の効率化が期待されます。
本研究成果は、2023年5月10日付ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。

 

【ポイント】

・医薬品候補として重要な特殊環状ペプチド注1)の低コストで生産性が極めて高く、廃棄物量が少ない、かつ精製が容易な合成法を開発。
・不安定な中間体に由来する副反応をマイクロフロー合成法注2)により抑制。
・副反応が進行しやすく、なおかつ環化が進行しづらい、4つもしくは5つのアミノ酸からなるN-メチル化ペプチドの環化に成功。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)特殊環状ペプチド:
タンパク質を構成する20種類のアミノ酸以外のアミノ酸を含む環状構造をもつペプチドのこと。酵素によるペプチドの切断が起こりにくく、標的の生体分子と、より強く選択的に相互作用し、細胞膜透過や経口投与を可能にする場合もあることから医薬品候補化合物として脚光を浴びている。

 

注2)マイクロフロー合成法:
微小な流路(通常内径1 mm以内)に溶液を流通させながら合成する手法。フラスコを用いる合成法と異なり、数ミリ秒で溶液を混合することが可能なため、短い反応時間を精密に制御できる。

 

注3)環状N-メチル化ペプチド:
環状構造をもち、また、ペプチド鎖を構成するアミド結合の窒素原子上にメチル基(-CH)をもつペプチドのこと。注1で記述した通り、医薬品として好ましい特性をもつことが多いため創薬における重要な標的となっている。

 

【論文情報】

雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Peptide Cyclization by the Use of Acylammonium Species
著者:Otoka Shamoto, Keiji Komuro, Naoto Sugisawa, Ting-Ho Chen, Hiroyuki Nakamura, and Shinichiro Fuse*
DOI: 10.1002/anie.202300647
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202300647

 

【研究代表者】

大学院創薬科学研究科 布施 新一郎 教授
http://www.ps.nagoya-u.ac.jp/lab_pages/chemprocess/