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工学

2023.06.09

二酸化炭素の還元触媒について、構造と電気化学特性の関係をナノスケールで解明 ~副反応を抑えた二酸化炭素還元のための触媒開発に貢献~

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の河邉 佑典 博士課程後期学生、同大学院工学研究科/国立大学法人金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の高橋 康史 教授らの研究グループは、筑波大学の伊藤 良一 准教授、堀 優太 助教との共同研究で、触媒表面で生じる二酸化炭素還元反応を、電気化学的にイメージングする技術を確立し、水素ガスなどの副生成物を抑え、化成品を効率的に生成する電解合成触媒の反応メカニズムの理解に成功しました。再生可能エネルギー注2)を活用した電気化学的な二酸化炭素の還元は、二酸化炭素を資源として化成品を電解合成できる有力なカーボンニュートラル注3)技術の一つです。その一方で、化成品を電解合成できる触媒では、水素ガスなどの副生成物が生じてしまうという課題を抱えています。本研究は、効率的な化成品の電解合成に向けて、副生成物を抑えられる電解合成触媒の特徴の理解を目指しました。走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)注4)を用いて触媒の幾何学構造と電気化学データを同時マッピング計測することで、幾何学構造と電気化学データが一対一で対応付けを実現させました。さらに、第一原理計算により触媒活性サイトにおける反応メカニズムをシミュレーションすることで、二酸化炭素の還元に必要な特徴を明らかにしました。本研究成果は、2023年6月5日付アメリカ化学雑誌「ACS Nano」に掲載されました。

 

【ポイント】

・二酸化炭素還元触媒の触媒活性サイトを実空間かつナノスケールで可視化。
・第一原理計算注1)により触媒活性サイトにおける反応メカニズムを評価。
・副生成物を抑えるために必要な電解合成触媒の特徴の理解。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)第一原理計算:

量子力学の基礎方程式であるシュレーディンガー方程式を近似的に解くことで、物質の安定な構造やエネルギーを求める手法。

 

注2)エネルギー:

物質が持っている仕事をする能力の総称。化学反応においては、各反応中間体の安定性や平衡条件などを表す指標となる。

 

注3)カーボンニュートラル:

温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすること。

 

注4)走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM):

電解液を充填したナノピペットを用いて試料表面にナノスケールの電気化学セルを形成し、ナノピペットと試料との間にメニスカス状の電気化学セルを形成し、局所的な電気化学計測を行う。ナノピペットを走査することで、触媒活性サイトの電気化学イメージを取得することができる。SECCM は Scanning electrochemical cell microscopy の略。

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Nano
論文タイトル:1T/1H-SnS2 Sheets for Electrochemical CO2 Reduction to Formate
著者: Yusuke Kawabe(名大博士課程後期2年), Yoshikazu Ito(筑波大学准教授), Yuta Hori(筑波大学助教), Suresh Kukunuri(筑波大学ポスドク研究員), Fumiya Shiokawa(筑波大学博士課程前期1年), Tomohiko Nishiuchi(大阪大学助教), Samuel Jeong(筑波大学助教), Kosuke Katagiri(金沢大学修士修了), Zeyu Xi(筑波大学博士課程後期2年), Zhikai Li(筑波大学博士課程後期3年), Yasuteru Shigeta(筑波大学教授), Yasufumi Takahashi(名古屋大学教授/金沢大学特任教授)
DOI :10.1021/acsnano.2c12627
URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.2c12627

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 高橋 康史 教授
https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/nanobio/