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数物系科学

2023.06.20

極端現象の制御シミュレーション実験 ―極端気象制御に向けた新理論―

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院多元数理科学研究科のセルジュ・リシャール教授、理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー(開拓研究本部三好予測科学研究室主任研究員、数理創造プログラム副プログラムディレクター)、キウェン・ソン大学院生リサーチ・アソシエイト(研究当時)の共同研究チームは、低次元の理想実験により、極端な大雨や高温などの極端現象の発生を防ぐ制御可能性を明らかにしました。
本研究成果は、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し、極端風水害の脅威を軽減するための理論研究の発展に貢献すると期待できます。
今回、共同研究チームは、簡単なカオス力学系として知られるローレンツ40変数モデル[1]を使って、制御シミュレーション実験(Control Simulation Experiment;CSE)を実行し、当該モデルにおける極端現象の発生を防ぐ制御可能性を明らかにしました。ローレンツ40変数モデルは、地球上の緯度が一定の円上に40個の点を並べ、その各点上の気象、例えば気圧や気温、風速、降水などを模したものと考えられます。それぞれの点での値は、刻々と上下に変動します。この値が1年に2度の割合で大きな値を示す極端現象に対し、微小な制御入力[2]を与えることで、この極端現象の発生を防ぐことに成功しました。今後、ローレンツ40変数モデルの代わりに実際の気象モデルを使うことで、極端な大雨や高温などの極端気象の制御可能性研究への扉が開かれます。
本研究は、科学雑誌『Nonlinear Processes in Geophysics 』オンライン版(6月19日付:日本時間6月19日)に掲載され、6月18~22日にイタリア・ローマで開催される第3回国際非線形動力学会議(NODYCON2023)の冒頭のキーノート講演(6月19日)にて発表されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】                                

[1] ローレンツ40変数モデル
1996年欧州中期天気予報センター(ECMWF)の予測可能性に関するセミナーでの講演「Predictability - A problem partly solved」の中で、エドワード・N・ローレンツ博士が用いた40変数のカオス力学系モデル。

 

[2] 制御入力
制御を行うために与える入力。

 

【論文情報】                                

<タイトル>
Control simulation experiments of extreme events with the Lorenz-96 model
<著者名>
Qiwen Sun, Takemasa Miyoshi and Serge Richard
<雑誌>
Nonlinear Processes of Geophysics
<DOI>
10.5194/npg-30-117-2023
<URL>
https://npg.copernicus.org/articles/30/117/2023/

 

【研究代表者】

大学院多元数理科学研究科 RICHARD Serge 教授
http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~richard/