国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の野間 健太郎 准教授らの研究グループは、雪印メグミルク株式会社 (代表取締役社長:佐藤 雅俊、本社:東京都新宿区、以下「雪印メグミルク」) との共同で、線虫C. elegans注1) (以下、「線虫」)を用いて、通常食である大腸菌を摂取させると起こる加齢個体の連合学習能注2)の低下が、乳酸菌Lactobaillus reuteri SBT10010を摂取させると起こらないことを発見し、さらに、その作用メカニズムの一端を明らかにしました。
今後、本研究を発展させることによって、加齢したヒトの脳機能を食事によって維持できるようになることが期待されます。
本研究成果は、2023年5月30日付生命科学分野のオープンアクセス学術雑誌「eLife」に掲載されました。
・餌として用いた大腸菌や乳酸菌が加齢線虫注1)の連合学習能注2)に影響することを見出した。
・個体寿命と加齢に伴う連合学習能の低下は別々に制御されている可能性が示唆された。
・餌に依存した加齢線虫の連合学習能を制御する因子として、転写因子注3)と神経ペプチド注4)をつくる酵素の遺伝子を見出した。
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注1)C. elegans:
非感染性の線形動物で生物学の研究に広く用いられている。世代時間が3日、寿命が2週間程度と短く、たった302個の神経細胞で様々な行動を示す。さらに体長が1mm程度と小さいことから、多個体を用いた寿命や行動の解析が容易である。これらの利点をいかして、我々の研究室では線虫を用いて神経機能が老化するメカニズムの解明に取り組んでいる。線虫は細菌を餌としているので、単一の細菌を用いることにより餌の影響を調べることができる。
注2)連合学習:
二種類の刺激を結び付けて行う学習。線虫はある温度、たとえば23℃で餌とともに飼育した後に、違う温度で餌のない環境に置くと、過去の飼育温度(23℃)に向かう温度走性と呼ばれる行動を示す。逆に23℃で餌がない状態で飼育すると23℃には向かっていかない。このことから線虫は、餌の有無と飼育温度を結び付けて学習していると考えられる。この温度走性行動を、連合学習能の指標として用いた。
注3)転写因子:
DNAに書き込まれた遺伝子の情報を読み取って利用するか否かを制御するタンパク質。
注4)神経ペプチド:
生物の脳を構成する神経細胞(ニューロン)で主に合成、分泌されるペプチド。ニューロン同士、あるいはニューロンと別の組織とのコミュニケーションに利用される。
雑誌名:eLife
論文タイトル:Bacterial diet affects the age-dependent decline of associative learning in Caenorhabditis elegans
著者:日暮 聡志1,2,*、塚田 祥雄1,2,*、Binta Maria Aleogho1,*、Joo Hyun Park1、 Yana Al-Hebri1、田中 勝1,2、中野 俊詩1、森 郁恵1, 野間 健太郎1
1 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
2 雪印メグミルク株式会社
* 本研究に等しい貢献をした著者
DOI: 10.7554/eLife.81418
URL: https://elifesciences.org/articles/81418
大学院理学研究科 野間 健太郎 准教授
https://nomatode.com