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化学

2023.06.29

脱炭素の加速へ―――メタン活用に新たな選択肢 ~酵素を"だまして"メタノールに変換する新技術~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の荘司 長三 教授、有安 真也 助教、米村 開 博士後期課程学生(研究当時)らの研究グループは、化学的に合成された分子を用いて、酵素の機能を人為的に制御する技術(基質誤認識システム)を駆使し、大量生産が容易な酵素を用いて、天然ガスの主成分であるメタンをメタノールに、常温かつ水中で変換する技術の開発に成功しました。
シトクロムP450BM3と呼ばれる巨大菌由来の金属酵素は、大腸菌を用いて大量に生産が可能で、取り扱いも容易なため、バイオ触媒としての利用が進められています。P450BM3は本来、長鎖脂肪酸を水酸化反応する酵素ですが、長鎖脂肪酸に似せた「おとり分子」をP450BM3に取り込ませると、「おとり分子」を長鎖脂肪酸であると勘違いして活性化され、メタンをメタノールに変換できることを明らかにしました。
本研究は、通常、メタンの水酸化反応を触媒する能力を持たない金属酵素を、化学的に合成した分子を用いて制御し、常温かつ水中でのメタンからメタノールへの変換を可能とした世界初の研究成果です。メタンの有効利用法を開発することは、環境問題の解決と資源利用の効率化を両立させる重要な課題となっています。その中で、本研究が提示するメタンからメタノールへの変換方法は、メタンガスの効率的かつ環境に優しい利用法を開拓する可能性を秘めた学術的に重要な研究成果といえます。
本研究成果は、2023年6月16日付アメリカ化学会の触媒化学専門誌「ACS Catalysis」のオンライン版で公開されました。

 

【ポイント】

・メタンをメタノールに、常温かつ水中で変換し、豊富な天然資源であるメタンガスの有効活用に発展可能。
・化学合成した分子で、扱いやすく、大量生産可能な酵素にメタン水酸化の能力を付与。
・メタン以外にも多くの炭化水素の低エネルギー、低環境負荷の変換技術へと発展可能。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Catalysis
論文タイトル:Catalytic Oxidation of Methane by Wild-Type Cytochrome P450BM3 with Chemically Evolved Decoy Molecules
(化学的に進化させたおとり分子を添加した野生型のシトクロムP450BM3による触媒的なメタン水酸化)
著者:有安 真也、米村 開、笠井 千枝、愛場 雄一郎、小野田 浩宜、四坂 勇磨、杉本 宏、當舎 武彦、久保 稔、蒲池 高志、吉澤 一成、荘司 長三*(*は責任著者)
DOI:10.1021/acscatal.3c01158
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acscatal.3c01158

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 荘司 長三 教授
http://bioinorg.chem.nagoya-u.ac.jp/

 

【関連情報】

インタビュー記事「天然ガス活用、「だます」のが名古屋流」(名大研究フロントライン)