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環境学

2023.07.14

世界CO2ゼロ排出を達成する新たなシナリオ ―直接空気回収・水素を用いた合成燃料(e-fuel)の活用―

気温上昇を1.5℃に抑制するため、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書では、2050年頃に世界全体でのCO2排出量をゼロとする複数の代表的なシナリオが示されました。それらは、バイオマス・CO2回収貯留(CCS)による負の排出、民生や運輸等のエネルギー需要部門における急速な需要低減、電化技術への転換を必要としていますが、これらのシナリオの実現には多くの課題が指摘されてきました。本研究ではこれらに依存しない新たなゼロ排出シナリオとして、炭素回収利用(CCU)を活用するシナリオを提示しました。これは、大気中のCO2を直接回収する技術(DAC)と、再生可能エネルギー電力起源の水素を用いた合成燃料、いわゆるe-fuelを利用するものです。本研究の結果、このシナリオでは、合成燃料が世界のエネルギー需要の約3割に達し、電化等の急速な需要転換を回避しつつCO2ゼロ排出を達成し得ることが分かりました。他方、直接空気回収や太陽光・風力発電の急拡大を伴うため、必要となる追加費用は電化を用いたシナリオの約2倍となることも明らかになりました。このように、CCUシナリオは、需要転換等が遅れた場合の代替となり得る一方で課題も多いことから、電化等の対策も含めた包括的な戦略の重要性が示唆されました。本成果は、日本時間2023年7月14日真夜0時にCell Pressが発行する国際学術誌『One Earth 』にオンライン掲載されました。


【ポイント】

 

● 炭素回収利用(CCU)が活用されるシナリオでは、再生可能エネルギー起源の水素とCO2の直接空気回収による合成燃料が用いられ、2050年までに世界のエネルギー需要の30%を満たし得ることが分かりました。その結果、他のCO2ゼロ排出シナリオでは必須とされてきた自動車や家庭などのエネルギー需要部門における急速な電化を伴わずとも、CO2ゼロ排出を達成し得ることが示されました。
● CCU活用シナリオでは、化石燃料・バイオマスやCCSへの依存は抑制されますが、合成燃料を製造するため、2050年までに必要となる再生可能エネルギー発電量は他のCO2ゼロ排出シナリオの1.5倍程度、直接空気回収量は年間10Gt-CO2以上となることが分かりました。
● CCU活用シナリオでは、CO2ゼロ排出達成に必要な追加費用は、他のCO2ゼロ排出シナリオの約2倍に増加する結果となりました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

・ DAC (Direct Air Capture):空気中のCO2を分離・回収する技術。
・ CCU (Carbon Capture and Utilization):回収したCO2をエネルギー・化学品原料等に活用すること。ただし、乗用車での合成ガソリン消費など、エネルギーとして利用された場合、CO2は再度大気中に放出されることとなる。
・ CCS (Carbon Capture and Sequestration):回収したCO2を地中等に隔離し長期間固定すること。

 

【論文情報】

タイトル:Alternative, but expensive, energy transition scenario featuring carbon capture and utilization can preserve existing energy demand technologies(炭素回収利用を用いた新たなエネルギー移行シナリオ:既存のエネルギー利用技術を維持できるが高コスト)
著者:Ken Oshiro, Shinichiro Fujimori, Tomoko Hasegawa, Shinichiro Asayama, Hiroto Shiraki, Kiyoshi Takahashi
掲載誌:One Earth DOI:10.1016/j.oneear.2023.06.005
URL :https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590332223003019?via%3Dihub

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 白木 裕斗 准教授
http://sd.urban.env.nagoya-u.ac.jp/shiraki/