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医歯薬学

2023.07.06

三価クロムの長期的な過剰曝露による高血圧と尿糖の改善効果

名古屋大学大学院医学系研究科環境労働衛生学の土山智之 非常勤講師・田崎啓 講師・加藤昌志 教授(責任著者)等の研究グループは、バングラデシュの健康・家族福祉省 Al Hossain 医系技官、ダッカ大学の Akhand 教授・Ahsan 教授等との国際共同研究成果として、バングラデシュの皮革工場労働者における三価クロムの健康影響に関する新知見を報告しました。
皮革産業は世界貿易額が 1,000 億ドルを超える巨大産業であり、世界中で数百万人の労働者が従事しているとも推計されています。皮革工場では、皮なめしの過程において大量の三価クロムが使用されるので、未処理の廃液が工場外に流出すると、甚大な環境汚染が誘発されます。本研究グループは、先行研究において、バングラデシュの皮革工場を汚染源とする三価クロム等の環境汚染について報告するとともに、除染に有効なオリジナルの浄化材(特許 5857362 号)を開発しました(Chemosphere 2018;Chemosphere 2022a)。さらに、過剰の三価クロムに長期間さらされた皮革工場労働者に、皮膚障害(Chemosphere 2019)・腎障害(Environ Res 2020)・聴覚障害(Chemosphere 2022b)等の健康障害が誘発される可能性を報告しています。
本研究では、高濃度の三価クロムに長期間さらされていることが、高血圧と尿糖の有病率にどのような影響を与えるのかを皮革工場労働者と事務労働者(対照)に焦点を当てて調べました。当初の予想に反し、三価クロムにさらされている皮革工場労働者の高血圧と尿糖の有病率は、三価クロムにさらされていない事務労働者(対照)に比較して有意に低いことがわかりました。これは、三価クロムにより、高血圧と尿糖が予防・改善できる可能性を示しています。比較的安全な元素であると考えられている三価クロムは、栄養補助食品として、日本を含む多くの国で使用されています。
ゆえに、今後も、三価クロムが、どのくらいの濃度で、どんな経路で投与されると、どのような臓器に、どんな影響があるかを、慎重に検討する必要があると考えられます。
今回の研究では、三価クロムに長期間さらされていることが、むしろ健康に良い可能性もあるという結果になりましたが、皮革工場に起因する労働者の健康障害と環境汚染という現実は、バングラデシュの皮革製品の主たる輸出先の 1 つである日本も、真摯に受け止めるべきかもしれません。
本研究は、科研費(特設分野および国際共同研究加速基金)と公益財団法人旭硝子財団等の補助を受けて実施され、2023 年 7 月 5 日付 国際科学雑誌 Chemosphere の電子版に掲載されました。

 

【ポイント】

・バングラデシュの皮革工場を汚染源とする環境汚染とその除染に有効な浄化材の開発について、これまで報告してきました。
・今回、高濃度の三価クロムに長期間さらされた皮革工場労働者の高血圧と尿糖の有病率は、三価クロムにさらされていない事務労働者と比較して有意に低いことが新たにわかりました。
・過剰の三価クロムに長期間さらされた皮革工場労働者に健康障害が誘発される可能性も報告されているため、三価クロムの健康影響について慎重に検討する必要があると考えられる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名: Chemosphere
論文タイトル: Unexpected associations of long-term and excessive exposure to trivalent chromium with hypertension and glycosuria in male tannery workers.
著者・所属:
Tomoyuki Tsuchiyama, Nagoya University
Dijie Chen, Nagoya University
Aeorangajeb Alhossain, Nagoya University
Akira Tazaki, Nagoya University
Takumi Kagawa, Nagoya University
Yishuo Gu, Nagoya University
Yanjun Gao, Nagoya University
Fitri Kurniasari, Nagoya University
Nazmul Ahsan, Dhaka University
Anwarul Azim. Akhand, Dhaka University
Masashi Kato, Nagoya University

 

DOI: 10.1016/j.chemosphere.2023.139190

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Che_230706en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 加藤 昌志 教授
https://nu-hygiene.jimdofree.com