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化学

2023.07.06

キラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒の開発 ~SDGsと元素戦略に基づく医薬品探索研究を推進~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の石原 一彰 教授、大村 修平 助教、堀部 貴大 特任助教(研究当時)、片桐 佳 博士後期課程学生、加藤 春奈 博士前期課程学生(研究当時)らの研究グループは、北海道大学触媒科学研究所の長谷川 淳也 教授、宮川 翔 博士後期課程学生との共同研究で、キラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒を用いる不斉ラジカルカチオン[2 + 2]及び[4 + 2]環化付加反応の開発に成功しました。具体的には、不斉ラジカルカチオン[2 + 2]環化付加反応の開発により、エナンチオ選択性注7)とジアステレオ選択性注8)の同時制御を達成し、不斉ラジカルカチオン[4 + 2]環化付加反応の開発により、古典的な[4 + 2]環化付加反応(Diels-Alder反応注9))では得ることの難しい[4 + 2]環化付加体の位置異性体注10)の合成を達成しました。
多くの医薬品に見られる4及び6員環骨格の中でも、従来法では達成困難な骨格構築が可能になり、本研究により医薬品探索研究の推進が期待されます。さらに、青色の可視光照射下、触媒には地球上に普遍的に存在する豊富な資源である鉄を用いることから、本研究はSDGsと元素戦略に基づく新たな手法の開拓といえます
本研究成果は、2023年7月5日付アメリカ化学会誌「J. Am. Chem. Soc.」のオンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・豊富な資源である鉄の特性を活かしてキラル注1)鉄(III)光レドックス触媒注2)を開発(SDGs 9,12注3)); 元素戦略)
・青色の可視光をエネルギーに用いた化学反応を開発(SDGs 7,9)
・不斉注4)ラジカルカチオン注5)[2 + 2]および[4 + 2]環化付加反応注6)を開発(SDGs 9)
・得られた[2 + 2]環化付加体および[4 + 2]環化付加体は、多くの医薬品に見られる重要な骨格を有しており、医薬品探索研究の推進を期待(SDGs 3,9,12)

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)キラル:
鏡像と重ね合わすことができない関係。

 

注2)光レドックス触媒: 
光エネルギーを吸収して優れた酸化力または還元力を示す触媒。

 

注3)SDGs:
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)。2030年までに達成すべき具体的な17の目標が示されている。

 

注4)不斉:
分子などが立体構造に対称性を欠く現象。

 

注5)ラジカルカチオン:
ラジカルとカチオンの両方の性質を有する化学種。

 

注6)環化付加反応:
一般に、多重結合同士が付加反応を起こして環を形成する化学反応。

 

注7)エナンチオ選択性:
エナンチオマー(鏡像異性体)の生成比。

 

注8)ジアステレオ選択性:
ジアステレオマー(エナンチオマーに該当しない立体異性体)の生成比。

 

注9)Diels-Alder反応:
アルケンとジエンの環化付加反応。1928年にOtto DielsとKurt Alderによって発見された。

 

注10)位置異性体:
regioisomerの日本語訳。化学反応の配向の違いによって生じる異性体。その生成比を位置選択性(regioiselectivity)という。site-selectivity(一つの基質に同種の官能基が複数存在する際の官能基選択性)も位置選択性を訳されるが、区別して用いられる。

 

【論文情報】

雑誌名:米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Highly Enantioselective Radical Cation [2 + 2] and [4 + 2] Cycloadditions by Chiral Iron(III) Photoredox Catalysis
著者:大村 修平(名大助教)、片桐 佳(名大院生)、加藤 春奈(当時、名大院生)、堀部 貴大(当時、名大特任助教)、宮川 翔(北大院生)、長谷川 淳也(北大教授)、石原 一彰(名大教授)
DOI: 10.1021/jacs.3c04010
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c04010

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 石原 一彰 教授
https://www.ishihara-lab.net/