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医歯薬学

2023.08.08

骨格筋由来因子マイオネクチンによるサルコペニア防御機構の解明 〜健康寿命延伸に向けたサルコペニアの治療法開発に光〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 分子循環器医学(興和)寄附講座の大橋浩二 特任准教授、大内乗有 特任教授、循環器内科学の尾崎祐太 大学院生、加藤勝洋 病院助教、室原豊明 教授の研究グループは、骨格筋由来分泌因子であるマイオネクチンのサルコペニア※1 に対する防御作用とそのメカニズムを明らかにしました。
加齢に伴う骨格筋量と機能の低下を特徴とするサルコペニアは心血管疾患の病態との関連や健康寿命の短縮に繋がることが報告されています。サルコペニアの予防・改善に運動療法の有用性が示されていますが有効な薬物療法は確立されていません。以前、我々は運動により発現増加を示す骨格筋由来因子、マイオネクチンが心臓保護作用を有することを報告しました。今回、坐骨神経切断あるいはデキサメタゾン※2投与による筋萎縮モデルにおいて、マイオネクチン欠損マウスは野生型マウスに比べて筋重量が低下し、筋断面積も減少していました。除神経後の骨格筋での RNA シークエンス※3 による遺伝子発現と、Western blot 法※4 による蛋白発現の解析では、マイオネクチン欠損マウスの骨格筋において AMPK/PGC-1α※5 シグナルとミトコンドリア※6 生合成関連分子の発現が低下していました。マイオネクチン欠損マウスの除神経後の骨格筋ではミトコンドリア量および機能の低下を示し、マウスの骨格筋へのマイオネクチンの投与は除神経による筋重量と筋断面積低下を抑制し、その作用は AMPKの活性化を介していました。さらに、高齢マイオネクチン欠損マウス(80 週齢)は同週齢の野生型マウスと比較し、筋重量は減少し、筋力と自走距離も低下していました。早期老化を示す SAMP8 マウス※7 の解析では、マイオネクチンの骨格筋への投与によりPGC1αの発現上昇を伴う筋重量と筋断面積の増加を認めました。従って、マイオネクチンは AMPK/PGC1α経路を介したミトコンドリア機能の活性化により骨格筋機能を改善することが示されました。本研究成果は、2023 年 8 月 4 日付で英国、米国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・高齢化社会における健康寿命延伸にサルコペニア治療法の開発は急務の課題である。
・骨格筋萎縮モデルにおいてマイオネクチンは骨格筋量を増加させ骨格筋機能を改善する。
・サルコペニアに対する運動療法の有効性のメカニズムに、マイオネクチンの関与が示唆される。
・マイオネクチンの骨格筋保護機構がはじめて示され、マイオネクチンは加齢、廃用性萎縮、薬剤性等の様々な筋萎縮に対する新たな治療標的になることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1. サルコペニア:加齢に伴う骨格筋量の低下。
※2. デキサメタゾン:合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)の一つで抗炎症作用を有し膠原病等の治療に用いられるが、長期使用で骨格筋萎縮を来す。
※3. RNA シークエンス:次世代シークエンサーを用いて遺伝子発現を網羅的に解析する手法。
※4. Western blot 法:SDS-PAGE を行った後に、タンパク質をメンブレンに転写し抗体を用いて特定のタンパク質を検出する方法。
※5. AMPK/PGC1α:骨格筋において AMPK/PGC1αシグナルはミトコンドリア生合成を促進し、脂肪酸酸化の促進や糖取り込みをさせる。
※6. ミトコンドリア:真核生物の細胞内に存在する細胞小器官の一つであり、ATP の主な産生器官である。
※7. SAMP8 マウス:Senescence-associated mouse prone(SAMP)は早期の老化を示す系統として確立された SAMP1~SAMP10 マウスの一つであり、比較的早期にサルコペニアを呈する。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Myonectin protects against skeletal muscle dysfunction through activation of AMPK/PGC1α pathway
著者名・所属名:
Yuta Ozaki 1, Koji Ohashi 2, Naoya Otaka 1, Hiroshi Kawanishi 1, Tomonobu Takikawa 1, Lixin Fang 1, Kunihiko Takahara 1, Minako Tatsumi 2, Sohta Ishihama 1, Mikito Takefuji 1, Katsuhiro Kato 1, Yuuki Shimizu 1, Yasuko K Bando 1, Aiko Inoue 3, Masafumi Kuzuya 3,4, Shinji Miura 5, Toyoaki Murohara 1 and Noriyuki Ouchi 2
1 Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Molecular Medicine and Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3 Institute of Innovation for Future Society, Nagoya University
Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
4 Department of Community Healthcare & Geriatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
5 Laboratory of Nutritional Biochemistry, Graduate School of Nutritional and Environmental Sciences, University of Shizuoka, Shizuoka, Japan
DOI: 10.1038/s41467-023-40435-2

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Nat_230808en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 大橋 浩二 特任准教授
https://www.med-nagoya-junnai.jp