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医歯薬学

2023.08.24

血液透析患者における心臓突然死リスクと残存腎機能との関連性 〜わずかに残った尿量すらも、長期の余命と栄養に関連することを発見〜

名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学の岡崎雅樹(臨床研究教育学 助教)は、米国・カリフォルニア大学アーバイン校腎臓内科 Kamyar Kalantar-Zadeh 教授、同国・ミシシッピ大学腎臓内科小尾佳嗣助教、同大学腎臓内科 Tariq Shafi 教授、テネシー大学腎臓内科 Csaba Kovesdy 教授らとの共同研究により、血液透析*1 を新たに開始した約 4 万人の末期腎不全*2 患者さんにおける 1 日あたりの尿と、心臓突然死を含む心血管病死亡および非心血管病死亡リスクとの関連性を解析しました。その結果、残存している腎機能を失うことは、心臓突然死を含むあらゆる死亡リスクの上昇と関連すること、そしてその背景の一つに栄養指標が悪化する傾向があることを明らかにしました。
日本では、腎臓病が進行したために新たに血液透析を必要とする患者さんが、毎年3 万 5 千人以上います。これらの患者さんは、24 時間働いて尿を作っている腎臓の働きが大きく低下し、自分の腎臓では老廃物を十分に体の外へ出すことができないために、血液透析等の腎代替療法*3 を行うことで、自身の健康と生命を維持しています。今回、腎臓の働きが高度に低下した患者さんの大規模なデータを分析することによって、腎臓が担っている生理的な役割が、健康の維持にとっていかに重要であるかが、改めて浮き彫りになりました。本研究の結果を受けて、血液透析を受けている腎臓病の患者さんに対して、腎機能を保つための新規治療を開発する臨床研究の必要性が明らかとなりました。
本研究成果は、腎臓病領域の国際科学雑誌「Kidney International Reports」(2023 年 8 月 3 日付のオンライン先行版)に掲載されました。

 

【ポイント】

・新たに血液透析を必要とする患者さんにとって、自身に残っているわずかな腎機能すらも、長期の余命と栄養に有利な影響がある。
・残存する腎機能の利点は、老廃物の除去と、余分な水分の排出である。
・腎臓病患者さんの健康を守るために、腎臓の機能を保つことや、栄養の状態を向上させる取り組みが広がることが、今後ますます期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 血液透析:血液透析療法は、機械に自分の血液を通し、血液中の老廃物や不要な水分を除去し、血液をきれいして自分自身に送り返す治療法です。具体的には、腕の動脈と静脈をつないだ“シャント”という太い血管に針を刺します。ポンプで血液を体の外に抜き出し、透析膜というフィルターで尿毒素や余分な水分を取り除き、塩分やミネラルを調節した後に、体に戻します。一般的な血液透析は 3-5 時間かけて行われますが、本来 24 時間働いている健康な腎臓と比べると、1 週間あたり合計 12 時間の血液透析では、約10%程度しか肩代わりできないとされます。

 

*2 末期腎不全:腎臓の働きが正常な腎臓の 15%未満に低下し、体内の老廃物や余分な水分を十分に排泄できない状態です。薬による治療や食事療法にも関わらず、体にたまった老廃物によって尿毒症が起きたり、過剰な水分が心臓の負担となって心不全が起きたりする場合には、腎臓の機能を肩代わりする治療(後述の腎代替療法)が必要になります。

 

*3 腎代替療法:失われた腎臓の働きを補う治療法を腎代替療法と呼び、大きく分けて3 つ挙げられます。1 つ目は血液を透析器に通してきれいにする「血液透析」、2 つ目は自分自身のお腹にカテーテルという管を入れて、それを通して透析液を出し入れする「腹膜透析」、3 つ目は他の人の腎臓をもらって手術で自分の体内に移植する「腎移植」です。3つの腎代替療法には、それぞれに長所と課題があります。そのため、患者さんにとって重要なポイントは、お互いの腎代替治療の特徴をよく知ったうえで、必要に応じて専門家のアドバイスを得ながら、納得した選択をすることです。

 

【論文情報】

雑誌名:Kidney International Reports
論文タイトル:Residual Kidney Function and Cause-Specific Mortality among Incident Hemodialysis Patients
著者名: Masaki Okazaki, MD, PhD,1,2 Yoshitsugu Obi, MD, PhD,3 Tariq Shafi, MBBS, MHS,3 Connie M. Rhee, MD, MSc,1,5 Csaba P. Kovesdy, MD,6,7 Kamyar Kalantar-Zadeh, MD, MPH, PhD,1,4,5,8
所属名:
1Harold Simmons Center for Kidney Disease Research and Epidemiology, Division of Nephrology, Hypertension and Kidney Transplantation, University of California Irvine School of Medicine, Orange, CA, USA;
2Department of Nephrology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan;
3Division of Nephrology, University of Mississippi Medical Center, Jackson, MS, USA;
4Nephrology Section, Tibor Rubin Veterans Affairs Medical Center, Long Beach, CA, USA;
5Division of Nephrology, University of California Irvine Medical Center, Irvine, CA, USA;
6Division of Nephrology, University of Tennessee Health Science Center, Memphis, TN, USA;
7Nephrology Section, Memphis Veterans Affairs Medical Center, Memphis, TN, USA;
8Department of Epidemiology, Fielding School of Public Health, University of California, Los Angeles (UCLA), Los Angeles, CA, USA;

 

DOI: 10.1016/j.ekir.2023.07.020

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Kid_230824en.pdf

 

【本学の関係研究者】

大学院医学系研究科 岡崎 雅樹 助教
https://www.nagoya-kidney.jp/