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生物学

2023.09.08

ゼブラフィッシュの神経細胞と心筋細胞を光操作 ~光遺伝学ツールを用いて細胞や器官の機能を光で制御~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の日比 正彦 教授、清水 貴史 准教授、小山 航 博士後期課程学生、高等研究院・大学院生命農学研究科の萩尾 華子 特任助教らの研究グループは、名古屋工業大学の神取 秀樹 教授、大阪公立大学の寺北 明久 教授のグループとの共同研究で、モデル動物であるゼブラフィッシュの任意の細胞に、種々の光遺伝学ツールを発現させるため、トランスジェニック注7)ゼブラフィッシュの開発を行いました。これらを用いて、魚の遊泳に関わる神経細胞と心筋細胞に光遺伝学ツールを発現させ、神経回路と心臓の機能を光で自由に操作できることを示しました
本研究で開発した光遺伝学ツールにより、ゼブラフィッシュの神経回路や心臓機能の制御だけでなく、哺乳類を含む脊椎動物一般の、ホルモンや神経伝達物質による細胞や器官機能を制御するシグナル伝達機構の解明にも役立つことが期待されます。
本研究成果は、2023年8月17日付生物医学・生命科学雑誌『 eLife 』に2報の論文として掲載されました。

 

【ポイント】

・動物由来のGタンパク質注1)共役型ロドプシン注2)、微生物由来の新規チャネルロドプシン、グアニル酸シクラーゼ注3)ロドプシン、光活性化型アデニル酸シクラーゼ注4)の光遺伝学ツールを、ゼブラフィッシュ注5)の特定の細胞や器官に発現させるシステムを開発した。
・光遺伝学ツールをゼブラフィッシュの神経細胞と心筋細胞に発現させ、神経回路や心臓の機能を光制御することができた。
・動物個体の特定の細胞や器官で、cAMP/cGMP注6)やCa2+等の細胞内2次メッセンジャーを光操作することが可能になった。
・細胞や器官機能を制御する、ホルモンや神経伝達物質のシグナル伝達の解析ツールとして、今後多くの研究で使用されるものと期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)Gタンパク質:
細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質である。不活性時には細胞膜に存在する受容体分子と結合したGDP結合型であるが、受容体などからの刺激によりGTP結合型となると活性化され、情報を伝達する。

 

注2)ロドプシン:
発色団レチナールに結合し、視細胞の桿体の光に反応してGタンパク質を介して細胞内シグナル伝達を駆動する視物質で、7回膜貫通ドメインを有する。近年、多くの生物でも、同様の構造をもつ光反応性タンパク質が見つかっており、総称してロドプシンと呼ぶこともある。ロドプシンには、Gタンパク質共役型ロドプシン、イオン透過型ロドプシン(チャネルロドプシン・ポンプ型ロドプシン)、酵素型ロドプシンなどが含まれる。

 

注3)グアニル酸シクラーゼ:
細胞内情報伝達物質であるcGMPの産生を触媒する酵素である。

 

注4)光活性化型アデニル酸シクラーゼ:
細胞内情報伝達物質であるcAMPの産生を光で制御できるタンパク質である。

 

注5)ゼブラフィッシュ:
モデル動物の一つで、胚が透明で、世代交代期間が短く、遺伝子改変が容易な魚である。

 

注6)cAMP/cGMP:
細胞内2次メッセンジャーとして働く情報伝達物質である。

 

注7)トランスジェニック:
ある特定の遺伝子を受精卵などの細胞に注入し、注入された遺伝子情報を人為的にその生物のゲノムに取り込ませることである。このような操作によって作製された個体を遺伝子改変動物(トランスジェニック動物)という。

 

【論文情報】

雑誌名:eLife
論文タイトル:Optogenetic manipulation of Gq- and Gi/o-coupled receptor signaling in neurons and heart muscle cells
著者:Hanako Hagio1,2,3, Wataru Koyama1, Shiori Hosaka1, Aysenur Deniz Song1, Janchiv Narantsatsral1, Koji Matsuda1, Tomohiro Sugihara4, Takashi Shimizu1,
Mitsumasa Koyanagi4, Akihisa Terakita4, Masahiko Hibi1* 
1: 名古屋大学大学院理学研究科、2: 名古屋大学大学院生命農学研究科、3: 名古屋大学高等研究院、4: 大阪公立大学大学院理学研究科
DOI: 10.7554/eLife.83974
URL: https://elifesciences.org/articles/83974

 

雑誌名:eLife
論文タイトル:Optogenetic manipulation of neuronal and cardiomyocyte functions in zebrafish using microbial rhodopsins and adenylyl cyclases
著者:Hanako Hagio1,2,3, Wataru Koyama1, Shiori Hosaka1, Aysenur Deniz Song1,
Janchiv Narantsatsral1, Koji Matsuda1, Takashi Shimizu1, Shoko Hososhima4,
Satoshi P Tsunoda4, Hideki Kandori4, Masahiko Hibi1 
1: 名古屋大学大学院理学研究科、2: 名古屋大学大学院生命農学研究科、3: 名古屋大学高等研究院、4: 名古屋工業大学大学院工学専攻
DOI: 10.7554/eLife.83975
URL: https://elifesciences.org/articles/83975

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 日比 正彦 教授
http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/