国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の橋本 寿史 講師を中心とする研究グループは、基礎生物学研究所および英国・バース大学の研究グループと共同で、メダカとゼブラフィッシュを用いて、魚類の黄色素胞が発生するしくみを解明しました。
私たちヒトはメラニンという色素の産生を担う細胞(メラノサイト)を持っており、メラニンの量や種類が体色にかかわります。一方、魚類はメラノサイトにあたる黒色素胞のほか、黄色の黄色素胞や虹色の虹色素胞といった多様な色素細胞も持っています。しかし、メラノサイト・黒色素胞以外の色素細胞が発生するしくみはよく分かっていませんでした。
研究グループはメダカとゼブラフィッシュを用いて、黒色素胞の発生に必要な遺伝子のセットに、別の遺伝子Pax7のはたらきが加わることで黄色素胞が発生する、というしくみを明らかにしました。この結果から、進化の過程で、魚類は脊椎動物の祖先が持っていた黒色素胞をつくるしくみを流用して黄色素胞をつくるようになったこと、また哺乳類は一度獲得したPax7のはたらきを失って黄色素胞を作らなくなったことが推定されます。今回の成果は、生物が持つ多様な体色の起源について、細胞の進化という視点からの解明に役立つことが期待されます。本研究成果は本研究成果は2023年10月12日17時(日本時間)付でイギリス専門誌「Development」オンライン版に掲載されました。
・魚類は黒色素胞や黄色素胞など、体色を決める多様な色素細胞注1)を持っている。
・今回メダカを用いて、黒色素胞をつくる遺伝子のセットに別の遺伝子の作用が加わって、黄色素胞が発生することを明らかにした。
・魚類では黒色素胞をつくるしくみを使いまわして黄色素胞をつくれるように進化したと推定され、また私たち哺乳類は、一度獲得した黄色素胞をつくる遺伝子のはたらきを失うように進化したと推定される。
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注1)色素細胞:
動物の皮膚(体表)にあって、からだの色をつくることに特化した細胞の総称。ヒトを含む哺乳類と鳥類の色素細胞はメラノサイトとよばれるメラニン産生細胞だけであるが、その他の脊椎動物(魚類を含む)には、メラノサイトと同様にメラニンを産生する黒色素胞や、キラキラ光ったり白色に光ったりする虹色素胞、黄色から赤色までの暖色に発色する黄色素胞などがある。
雑誌名:Development
論文タイトル:A gene regulatory network combining Pax3/7, Sox10 and Mitf generates diverse pigment cell-types in medaka and zebrafish
著者: Motohiro Miyadai1, Hiroyuki Takada1, Akiko Shiraishi1, Tetsuaki Kimura2, Ikuko Watakabe3, Hikaru Kobayashi1, Yusuke Nagao1, Kiyoshi Naruse2, Shin-ichi Higashijima3, Takashi Shimizu1, Robert N. Kelsh4, Masahiko Hibi1, Hisashi Hashimoto1(宮台元裕1、髙田広之1、白石陽子1、木村哲晃2、渡我部育子3、小林 輝1、長尾勇佑1、成瀬 清2、東島眞一3、清水貴史1、ロバートケルシュ4、日比正彦1、橋本寿史1) ※下線は本学関係者
1:名古屋大学大学院理学研究科、2:基礎生物学研究所バイオリソース研究室、3:基礎生物学研究所・生命創成探求センター、3:バース大学生命科学部
DOI: doi.org/10.1242/dev.202114
URL: https://journals.biologists.com/dev/article/150/19/dev202114/332746/A-gene-regulatory-network-combining-Pax3-7-Sox10
大学院理学研究科 橋本 寿史 講師
https://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/new/index.html