国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史教授、植村 立准教授、北海道大学低温科学研究所の川上 薫非常勤研究員、飯塚芳徳准教授、的場澄人助教、北見工業大学の堀 彰准教授、金沢大学環日本海域環境研究センターの石野咲子助教、国立極地研究所先端研究推進系の藤田秀二教授、青木輝夫特任教授、川村賢二准教授、弘前大学大学院理工学研究科の堀内一穂准教授らの研究グループは、2021年に掘削したグリーンランド氷床南東部アイスコア*1の高精度年代スケールを構築し、産業革命前から現在にかけての夏季積雪融解量が北極域の温暖化に伴い増加したことを解明しました。
近年、北極域では地球全体を上回るペースで気温が上昇しています。今回研究グループは、複数の物理・化学的な解析から、グリーンランド氷床南東部のアイスコアの1799年から2020年にかけての時間スケールを、半年解像度という高精度での確立に成功しました。そして確立された年代を元に過去221年の降水量と夏季融解層の厚さを復元しました。その結果グリーンランド南東部では、年降水量は過去221年間にわたり減少も増加も示さず有意な傾向は見られませんでしたが、融解層の厚さは北極域の温暖化に伴い19世紀から21世紀にかけて増加していることが明らかになりました(下図)。本研究結果は、産業革命(1850年)前から現在において、温暖化によりグリーンランドの内陸高地で夏季積雪融解量が増加していることを実証しました。今後、得られた地上真値を用いた長期間の領域気候モデルや衛星観測データの検証から、地球気温の将来予測の精度を高めることが期待されます。
なお、本研究成果は、2023年10月13日(金)公開のJournal of Geophysical Research, Atmospheres誌に掲載されました。
・グリーンランド南東部アイスコアの1799年~2020年の年代スケールを半年という高精度で確立。
・北極域の温暖化に伴って過去221年間の夏季積雪融解量が増加したことを復元。
・融解量増加の実測は観測点の少ない内陸高地の温暖化メカニズムの解明に貢献。
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*1 アイスコア … 極地氷床などで鉛直方向にくり貫かれる円柱状の氷試料のこと。
論文名 SE-Dome Ⅱ ice core dating with half-year precision: Increasing melting events from 1799 to 2020 in southeastern Greenland(SE-Dome Ⅱアイスコアの半年精度の年代構築:グリーンランド南東部における1799年から2020年までの融解イベントの増加)
著者名 川上 薫1、飯塚芳徳1、捧 茉優2、松本真依2、斎藤 健1、堀 彰3、石野咲子4、藤田秀二5,6、藤田耕史7、高杉啓太3、畠山 匠8、浜本佐彩7、渡利晃久2、江刺和音7、大塚美侑2、植村 立7、堀内一穂8、箕輪昌紘1、服部祥平9、青木輝夫5,6、平林幹啓5、川村賢二5,6,10、的場澄人1(1北海道大学低温科学研究所、2北海道大学大学院環境科学院、3北見工業大学、4金沢大学環日本海域環境研究センター、5国立極地研究所、6総合研究大学院大学、7名古屋大学環境学研究科、8弘前大学大学院理工学研究科、9南京大学、10海洋研究開発機構)
雑誌名 Journal of Geophysical Research, Atmospheres(地球物理学の専門誌)
DOI 10.1029/2023JD038874
URL https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2023JD038874
公表日 2023年10月13日(金)(オンライン公開)