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化学

2023.11.30

触媒的炭素-水素結合活性化による含七員環ナノカーボン合成 ~容易に合成、高い溶解性・凝集状態で強まる発光特性を確認~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の伊藤 英人 准教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹 健一郎 教授、山田 圭悟 博士後期課程学生らは、効率的かつ迅速な「パラジウム触媒を用いた含七員環ナノカーボンの合成法」の開発に成功しました。
グラフェンなどの六員環(ベンゼン)骨格の炭素材料では、非六員環(五・七・八員環)に起因した非六員環ナノカーボンが存在し、さまざまな物理的性質を示すことが知られていますが、「含七員環ナノカーボン」の効率的な合成法が限られていました。
本研究では、パラジウム触媒を用いた炭素-水素結合活性化反応を伴うカップリング反応注2)により、含七員環ナノカーボンの効率的な新規合成法を実現しました。この方法では、ブロモ基をもつ芳香環連結分子を原料として、様々な骨格をもつ幅広い含七員環ナノカーボンのみならず、ヘテロ原子注3)を含む多環芳香族炭化水素を良好な収率で得ることに成功しました。また、ロジウム触媒およびパラジウム触媒を組み合わせた逐次的な反応によって、入手容易な原料から各々2つの六員環と七員環を一挙に構築でき、これまでにない複雑な骨格をもつナノカーボンの合成も可能となりました。量子化学計算によって詳細な触媒反応機構が明らかとなり、七員環合成法の有用性が確認されました。さらに、合成された含七員環ナノカーボンは、湾曲した骨格により幅広い有機溶媒への高い溶解性を示すと同時に、固体凝集状態で強まる発光特性などのユニークな性質を有していることが分かりました。このような特性は構造有機化学、および有機EL材料や分子デバイスなどの材料科学の分野への応用が期待されます。
本研究は広範な含七員環ナノカーボンの合成の新しい指針となることが予想され、また合成した分子骨格としても新たな機能性分子としての応用展開が期待されます。
本研究成果は、2023年11月16日付ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・パラジウム触媒を用いた炭素-水素結合活性化により高効率で七員環骨格を構築
・様々な含七員環ナノカーボンやヘテロ多環芳香族炭化水素注1)の合成が可能
・入手容易な出発物質から一つのフラスコで一挙に複数環構築が可能
・量子化学計算による反応機構の解明
・湾曲した七員環骨格による高い溶解性、凝集状態での発光特性の発現

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)多環芳香族炭化水素:
ベンゼンやナフタレンよりも多くの芳香環をもつ芳香族炭化水素の総称であり、比較的小さな分子にはアントラセン、フェナントレン、ピレン 、ペリレン、コロネンなどの慣用名がある。英語略称名でPAHとも呼ばれる。
注2)カップリング反応:
パラジウム触媒などを用い、芳香族化合物同士を結合させる反応。鈴木・根岸・Heckらに与えられた2010年のノーベル化学賞の対象反応としても有名であり、1970年代から主に日本で盛んに研究されてきた。
注3)ヘテロ原子:
一般的にヘテロ原子は炭素や水素以外の原子を指す。特に有機化学の分野では慣用的に炭素と水素を除く非金属原子がヘテロ原子と呼ばれている。例えば酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)などがヘテロ原子に該当する。

 

【論文情報】

雑誌名:ドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition」
論文タイトル:“Synthesis of Heptagon-Containing Polyarenes by Catalytic C-H Activation”
著者:山田 圭悟Iain A. Stepek松岡 和伊藤 英人伊丹 健一郎は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1002/anie.202311770
URL: https://doi.org/10.1002/anie.202311770

 

【WPI-ITbMについて】http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 伊藤 英人 准教授
トランスフォーマティブ生命分子研究所 伊丹 健一郎 教授
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/