名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学の松澤令子 研究員、森瀬昌宏 講師、石井誠 教授らのグループは、免疫チェックポイント阻害剤と殺細胞性抗がん剤の併用療法が無効となった非小細胞肺がん患者さんの二次治療として、ドセタキセル・ラムシルマブ併用療法が有望な治療選択肢の一つであることを多施設共同第 II 相臨床試験の研究結果として報告しました。本研究は名古屋大学医学部附属病院をふくめ、全国の医療機関 8 施設の協力をえて行われました。
現在、進行期非小細胞肺がんの初回治療では免疫チェックポイント阻害剤と殺細胞性抗がん剤の併用療法が広く使用されていますが、8 割以上の患者さんでがんの病勢進行を認め、二次治療が必要となります。
ドセタキセル・ラムシルマブ併用療法は、免疫療法が日常診療で使用可能となる前から国内で保険承認されていた二次治療の一つですが、免疫チェックポイント阻害剤と殺細胞性抗がん剤の併用療法が無効となった後のドセタキセル+ラムシルマブ併用療法の有効性と安全性はさらなる検討が必要とされています。これは、先行して使用された免疫チェックポイント阻害剤の薬効が投与終了後も持続し、ドセタキセル・ラムシルマブ併用療法の効果が高まる期待がある一方で、副作用が増える懸念があるためです。
本研究では、免疫チェックポイント阻害剤と殺細胞性抗がん剤の併用療法が無効となった非小細胞肺癌に対するドセタキセル・ラムシルマブ併用療法の多施設共同第 II 相臨床試験を実施し、奏効割合は 34.4%で、転移を認める進行期非小細胞肺がんに対する二次治療として有望な結果が得られました。本研究は探索的な臨床試験であるため、さらに大規模な臨床試験で本研究の結果を検証する必要がありますが、本研究の成果として、研究で得られた結果が、1)日常診療で非小細胞肺がんに対する二次治療の選択を決定する際の参考となること、2)非小細胞肺がんに対する二次治療の進歩をめざし、さらなる研究を実施するための科学的根拠となることが期待されます。
本研究成果は、The Lancet Group の医学誌「eClinicalMedicine」の電子版(2023 年 11 月 9 日付)に掲載されました。
⚫ 転移を認める進行した非小細胞肺がんに対して、免疫チェックポイント阻害剤*1 と殺細胞性抗がん剤*2 の併用療法は初回標準治療の一つとして確立されていますが、がんの再増悪により、ほとんどの患者さんで二次治療が必要となります。
⚫ ドセタキセル・ラムシルマブ併用療法は、免疫療法が初回治療として確立される以前の臨床試験の結果に基づいて、初回治療後の二次治療の選択肢の一つとして国内で保険承認されている治療です。このため、初回治療として免疫チェックポイント阻害剤と殺細胞性抗がん剤の併用療法を選択し、その治療が無効となった後のドセタキセル・ラムシルマブ併用療法の有効性と安全性についてはさらなる評価が必要とされていました。
⚫ 本研究で実施した多施設共同第 II 相臨床試験*3 で、免疫チェックポイント阻害剤と殺細胞性抗がん剤の併用療法後のドセタキセル・ラムシルマブ療法の奏効割合*4は34.4%で、今後さらに検証していく必要はありますが、転移を認める進行期非小細胞肺がんに対する二次治療として有望な結果が得られました。
⚫ 今後、新規抗がん剤による二次治療が現在進行中の臨床試験結果によって新たに実用化され、二次治療の選択肢が増える可能性があることから、本研究の成果として、研究で得られた結果が1) 日常診療で非小細胞肺がんに対する二次治療の選択を決定する際の参考となること2) 非小細胞肺がんに対する二次治療の進歩をめざし、次なる研究を計画・実施する際の科学的根拠となることが期待されます。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
*1 免疫チェックポイント阻害剤:免疫細胞はがん細胞を攻撃する働きを有しています。この働きにブレーキをかける仕組みが存在し、「免疫チェックポイント」と呼ばれています。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントの機能を抑えることで、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする薬剤です。
*2 殺細胞性抗がん剤:がん細胞の DNA 合成や細胞分裂に関わる分子に作用して、がん細胞の増殖を抑えることでがんに対する効果を発揮する薬剤です。
*3 第 II 相臨床試験:抗がん剤など特定の治療の有効性と安全性を探索的に調べることが主な目的であることから、がんの組織型、がんの遺伝子異常のタイプ、治療のタイミングなどを限定して行われます。第 II 相臨床試験の結果によりある特定の治療が有望であるかを評価します。一方で、第 II 相臨床試験の結果だけでは、特定の治療が他の標準的な治療と比較して優れていると結論づけることはできず、第 II 相臨床試験の結果を検証するためには、より多くの患者さんの協力をえて行う第 III 相臨床試験が必要になります。
*4 奏効割合:ある特定のがん治療をうけた患者さんのなかで、腫瘍の明らかな縮小(部分奏効, PR)もしくは消失(完全奏効, CR)が認められた患者さんの割合。
雑誌名:eClinicalMedicine
論文タイトル:Efficacy and safety of second-line therapy of docetaxel plus ramucirumab after first-line platinum-based chemotherapy plus immune checkpoint inhibitors in non-small cell lung cancer (SCORPION): a multicenter, open-label, single-arm, phase 2 trial
著者名・所属名:
Reiko Matsuzawa Ph.D. 1,2#, Masahiro Morise Ph.D.1#, Kentaro Ito M.D. 3, Osamu Hataji Ph.D.3, Kosuke Takahashi Ph.D.4, Junji Koyama1, Yachiyo Kuwatsuka Ph.D.5, Yasuhiro Goto Ph.D.6, Kazuyoshi Imaizumi Ph.D.6, Hidetoshi Itani M.D.7, Teppei Yamaguchi Ph.D.2, Yoshitaka Zenke Ph.D.8, Masahide Oki Ph.D.9, Makoto Ishii Ph.D.1
1 Department of Respiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Thoracic Oncology, Aichi Cancer Center Hospital,Nagoya, Japan
3 Department of Respiratory Medicine, Matsusaka Municipal Hospital, Matsusaka, Japan
4 Department of Respiratory Medicine, Anjo Kosei Hospital, Anjo, Japan
5 Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
6 Department of Respiratory Medicine, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Japan
7 Department of Respiratory Medicine, Japanese Red Cross Ise Hospital, Ise, Japan
8 Department of Respiratory Medicine, National Cancer Center East, Kashiwa, Japan
9 Department of Respiratory Medicine, National Hospital Organization Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan
#These authors contributed equally to this work
DOI: 10.1016/j.eclinm.2023.102303
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/eCl_231110en.pdf