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人文学

2023.11.10

旧石器時代の人類は石器の材料を使い分けていた? ~石材の硬さから加工しやすさを評価~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の須賀 永帰 博士後期課程学生と名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の門脇 誠二 教授と束田 和弘 准教授らの共同研究グループは、旧石器時代の現生人類(ホモ・サピエンス)が使用していた石器石材の特性の違いを明らかにしました。
現生人類は30~20万年前頃にアフリカで出現し、5~4万年前頃にユーラシアへ拡散しました。研究グループは、ユーラシア拡散の起点である、中東のヨルダンにおいて旧石器時代(7~3万年前頃)の遺跡群と周辺の石器石材産地を調査し、収集した石器の材料となる原石(チャート)を分析しました。手法として、Schmidt Hammer注4)とロックウェル硬さ注5)の2種の力学的硬さ試験を行いました。結果、表面が滑らかで透過度の高いチャートは、その他のチャートよりも少ない力で割れることを明らかにしました。このチャートは小型石器に多く採用され、現生人類はこの特徴を感覚的に理解し、製作する石器によって使用石材を意図的に選択していたと考えられます。成果は当時の人類の技術行動の進化や環境適応プロセスの解明に大きく貢献しています。
本研究成果は、2023年11月8日付Springer Nature社(ドイツ・イギリス)の科学誌『Journal of Paleolithic Archaeology』にオンライン公開されました。

 

【ポイント】

・ 中東のヨルダンにおける旧石器時代注1)(7~3万年前頃)の遺跡などから石器材料の原石(チャート注2))を採取して硬さを調べ、表面が滑らかで透過度の高いチャートが、他のチャートと比較して少ない力で剥離できることを客観的に示した。
・ 剥離させやすいチャートは上部旧石器時代前期(4~3万年前)の小型石器注3)の多くに採用されることから、当時の現生人類は石器の種類に合わせて、石材ごとの特徴を理解した上で選択していたと考えられる。
・ 中東は現生人類がユーラシアに拡散した起点であり、本成果は、現生人類が絶滅せずに拡散し、各地に定着できた理由を技術行動の観点から解明することに大きく貢献すると考えられる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)旧石器時代:
人類史上はじめて石器が登場した約300万年前から約1万年前までの時代。野生の動植物を食料とする狩猟採集による生活が行われていた。中東では、ネアンデルタール人などの古代型人類と現生人類が共存した中部旧石器時代後期(7.5~5万年前)、古代型人類が絶滅した時期である上部旧石器時代初期(5~4万年前)、現生人類がさらに増加した上部旧石器時代前期(4~3万年前)に区分される。
注2)チャート:
ほとんど極細粒の石英粒子から構成される堆積岩。その見た目は様々で、中東だけでなく世界中の旧石器時代の遺跡で石器の材料として用いられている。
注3)小型石器:
長さ5cm未満、幅1cm程度でカミソリの刃のような打製石器。柄にはめられて用いられた。石器用語では、小石刃(しょうせきじん)や細石器(さいせっき)と呼ばれる。
注4)Schmidt Hammer
硬さ試験の一種で、バネによってハンマーを発射し、プランジャーを通して試験体に打撃を加え、反射してきた衝撃の強さから硬さ(強度)を測定する。主にコンクリートの強度を測定するために用いられる。
注5)ロックウェル硬さ
硬さ試験の一種で、ダイヤモンド製の圧子で対象となる試験体へ押し込み、試験体に生じたくぼみの深さから硬さを測定する。他の押し込み硬さ試験よりも簡便に測定できるのが特徴で、主にプラスチックや金属の硬さを測定するために用いられる。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Paleolithic Archaeology
論文タイトル:Explaining the Increase in “High-quality Chert” in the Early Upper Paleolithic Artifacts in Southern Jordan: Quantitative Examination of Chert Mechanical Properties and Fracture Predictability
著者:Eiki Suga(須賀 永帰)a*,Kazuhiro Tsukada(束田 和弘)b,Oday Tarawneh c,Sate Massadeh dSeiji Kadowaki(門脇 誠二)b
a 名古屋大学大学院環境学研究科
b 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科
c ヨルダン考古局
d ヨルダン観光局
* 責任著者
※下線は当学関係者
DOI: 10.1007/s41982-023-00164-w
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s41982-023-00164-w

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館/大学院環境学研究科 門脇 誠二 教授
http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html

 

【関連情報】

インタビュー記事「ヨルダン遺跡調査チーム、石器の声を聴いてみたら…」(名大研究フロントライン)