東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科(理化学研究所 放射光科学研究センター 客員研究員)の松井 公佑 講師、村本 雄太 博士前期課程学生(研究当時)、丹羽 瑠星 博士前期課程学生、同大学物質科学国際研究センター・大学院理学研究科・国際高等研究機構(理化学研究所 放射光科学研究センター 客員研究員)の唯 美津木 教授は、横浜ゴム株式会社の網野 直也 エグゼクティブフェロー・研究室長、鹿久保 隆志 主幹、高輝度光科学研究センターの宇留賀 朋哉 任期制専任研究員、北陸先端科学技術大学院大学 共創インテリジェンス研究領域のダム ヒョウチ 教授、ズイタイ ディン 博士研究員(研究当時)、ミンクエット ハ 博士後期課程学生(研究当時)との共同研究で、大型放射光施設SPring-8注1)において、X線吸収微細構造?コンピューター断層撮影(XAFS-CT)法注2)を用いて、ゴムと真ちゅう(銅と亜鉛合金)材料の接着モデルに対し、ゴム中の銅の分布と化学種の状態を三次元的に可視化しました。得られた三次元顕微分光イメージングデータの機械学習解析注3)により、ゴムと金属材料の接着や、老化過程の銅の反応パターンの追跡を行いました。その結果、ゴムと金属材料間の接着力を増強・低下させる過程で、銅が硫黄と反応する硫化反応のパターンが5通りあることを特定し、また、接着老化の進行に伴い、反応パターンが変化する様子を捉えることに成功しました。
本研究は、タイヤの接着寿命に直結するゴムと真ちゅう材料の銅の反応を非破壊で三次元的に診断する新しい方法の開発につながり、これを活用したタイヤの長寿命化・再資源化に向けた研究開発への活用と貢献が期待されます。
本研究成果は、2023年11月6日19時(日本時間)付「Communications Materials」誌に掲載されました。
・放射光を利用した最先端顕微分光イメージング計測により、ゴムと金属材料間の接着・老化反応を非破壊で三次元的に診断する新しい方法を開発。
・AI (機械学習) による解析で、ゴムと金属材料間の接着力を増強・低下させる反応を自動判別し、5つの反応パターンがあることを特定。
・タイヤの接着寿命予測や、長寿命化・再資源化に向けた材料開発への貢献に期待。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)大型放射光施設SPring-8:
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことであり、SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
注2)X線吸収微細構造?コンピューター断層撮影(XAFS-CT)法:
対象物に分光したX線を照射し、X線のエネルギー掃引により得られるX線吸収スペクトル(XAFS分光法)を画像検出器により計測し、これを試料全周方向に繰り返し計測することで得られる、最先端のイメージング計測法。イメージングデータを解析することにより、試料内に含まれる元素の種類や量、その化学状態や配位構造などの情報が得られ、三次元顕微分光イメージングができる。また、測定に用いるX線のエネルギーが高く、物質の中をよく通過する(透過率が高い)ため、試料を非破壊でイメージングすることができる。
注3)機械学習解析:
蓄積された入力データ群を学習させ、自動でデータの背景にある隠れたパターンや相関を見出す解析手法。
雑誌名:Communications Materials
論文タイトル:”Machine learning-derived reaction statistics for 3D spectroimaging of copper sulfidation in heterogeneous rubber/brass composites”
著者:松井 公佑、村本 雄太、丹羽 瑠星、鹿久保 隆志、網野 直也、宇留賀 朋哉、ミンクエット ハ、ズイタイ ディン、ヒョウチ ダム*、唯 美津木* (*は責任著者、下線は本学関係者)
DOI:10.1038/s43246-023-00413-z
URL:https://www.nature.com/articles/s43246-023-00413-z