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医歯薬学

2023.11.16

ナスから発見された天然化合物が子宮頸癌細胞への抗腫瘍効果を発揮することを実証

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学の茂木一将大学院生、吉原雅人 病院助教、梶山広明 教授、同ベルリサーチセンター 小屋美博 博士、那波明宏 教授らの研究グループは、ナスのヘタに含まれる天然化合物の9-oxo-octadecadienoic acid (9-oxo-ODAs)が子宮頸癌細胞に対して抗腫瘍効果をもたらすことを報告しました。
日本ではナスのヘタ(萼)がヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患である尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)*2 に対して民間療法薬として使用されていた背景があり、過去に本研究グループはナスの萼のエタノール抽出物が卵巣癌細胞や尖圭コンジローマ*3 を抑制することを報告し、抽出物中の有効成分である 9-oxo-ODAs を同定していました。本研究では尋常性疣贅や尖圭コンジローマと同じ HPV 関連疾患である子宮頸癌に対してヒト細胞株やモデルマウスを用いて 9-oxo-ODAs の抗腫瘍効果を検討しました。9-oxo-ODAs は、細胞分裂に関与する CDK1 や子宮頸癌の発癌に関与する HPV 由来のタンパクである E6、E7 の発現を抑制し、HPV 陽性ヒト子宮頸癌細胞の細胞周期停止、アポトーシス*4 を誘導す
ることが判明しました。またマウスモデルにおいても 9-oxo-ODAs の抗腫瘍効果を確認できました。本研究から 9-oxo-ODAs が HPV 陽性疾患に対する有望な治療薬となり得ることが示されました。
本研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」 (英国時間 2023 年 11 月 6 日付の電子版) に掲載されました。

 

【ポイント】

・ナスのヘタ(萼)に含まれる天然化合物である 9-oxo-ODAs の子宮頸癌細胞に対する抗腫瘍効果が確認された。

 

・本研究成果は、ヒトパピローマウイルス(HPV)*1 関連疾患である子宮頸癌や子宮頸部異形成への創薬につながる可能性がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 ヒトパピローマウイルス(HPV):皮膚や粘膜の上皮細胞を介して感染するウイルスです。HPVはその型が 100 種類以上あり、各型によって手指・顔面・性器などに特有の乳頭腫(イボ)を作ります。多くの乳頭腫は良性の腫瘍ですが、一部の高リスク型と呼ばれる HPV は、子宮頸がん、腟がん、外陰がん、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんなどの発生に関連すると考えられています。

 

*2 尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい):HPV が皮膚に感染して生じるイボの一種です。通常は手や指に発生することが多く、直径数 mm から 1cm 程度の結節を呈します。

 

*3 尖圭コンジローマ:HPV の6、11 型などが原因となるウイルス性性感染症の一つであり、生殖器とその周囲に発症し、乳頭状、鶏冠状のような特徴的な形態を示す良性腫瘍です。

 

*4 アポトーシス:細胞自身が能動的に誘導する細胞死の一形態であり、不要な細胞や機能不全に陥った細胞を除去する機構です。生体内での損傷した細胞や潜在的に有害な細胞(癌につながる可能性のある DNA 損傷のある細胞など)を除去するために必要とされます。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:9-oxo-ODAs suppresses the proliferation of human cervical cancer cells through the inhibition of CDKs and HPV oncoproteins
著者名・所属名: Kazumasa Mogi1, †, Yoshihiro Koya2, †, *, Masato Yoshihara1, *, Mai Sugiyama2, Rika Miki2, Emiri Miyamoto1, Hiroki Fujimoto1,3, Kazuhisa Kitami4, Shohei Iyoshi1,5,6, Sho Tano1, Kaname Uno1,7, Satoshi Tamauchi1, Akira Yokoi1,6 , Yusuke Shimizu1, Yoshiki Ikeda1, Nobuhisa Yoshikawa1, Kaoru Niimi1, Yoshihiko Yamakita2, Hiroyuki Tomita8, Kiyosumi Shibata9, Akihiro Nawa2, Yutaka Tomoda10, and Hiroaki Kajiyama1
These authors contributed equally to this work.
*Corresponding author
1. Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya University Graduate School of Medicine
2. Bell Research Center Obstetrics and Gynecology Academic Research & Industrial - Academia Collaboration Nagoya University Graduate School of MedicineBell Research Center
3. Discipline of Obstetrics and Gynaecology, Adelaide Medical School, Robinson Research Institute, University of Adelaide
4. Department of Obstetrics and Gynecology, Kitazato University 5. Spemann Graduate School of Biology and Medicine, University of Freiburg
6. Institute for Advanced Research, Nagoya University
7. Division of Clinical Genetics, Lund University
8. Department of Tumor Pathology, Gifu University Graduate School of Medicine
9. Department of Obstetrics and Gynecology, Bantane Hospital, Fujita Health University
10. Tomoda Ladies clinic

 

DOI: 10.1038/s41598-023-44365-3

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_231116en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 吉原 雅人 病院助教
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/obgy/