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農学

2023.11.24

キウイフルーツの熟度を、壊さず外から確認! ~分光法改良で、品質劣化のメカニズム解明や最適な貯蔵条件の確立を目指す~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の馬 特 特任講師、稲垣哲也准教授、土川 覚教授の研究グループは、近赤外飛行時間分光法注3)に基づいて、硬さが異なるキウイフルーツ内部の光吸収注4)と散乱の違いを調べました。その結果、波長846 nm近赤外光の吸収係数はほぼ一定であったが、試料間固有の光散乱特徴が見られました。これは、果実を壊さず外からその熟度を評価できたことを意味します。
今後更なる研究により、これまでのスペクトル解析注5)では障害だった光散乱を情報因子として扱い、多波長領域の吸収情報と散乱情報に分離して把握できれば、外部の要因によって影響が出にくい(ロバストな)硬度予測モデルの構築をはじめ、今まで達成できなかった複雑な鮮度劣化の評価も可能になると予想されます。
本研究では、「熟度」および「鮮度」を客観的に数値化することによって最適な貯蔵条件の確立だけでなく、顧客のニーズに応じた商品も提供できるようになります。さらに、果物収穫後鮮度劣化メカニズムの解明や、鮮度の個別追跡管理によってフードロス削減効果も期待できます。今後、現場での実用性を確保するため、携帯型への改良を目指し、非破壊で高精度な品質予測アルゴリズムを提案していく予定です。
本研究成果は、2023年10月2日付Scientific Reports雑誌『Validation study on light scattering changes in kiwifruit during postharvest storage using time ‑ resolved transmittance spectroscopy』に掲載されました。

 

【ポイント】

  • キウイフルーツや洋ナシなどの青果物は、貯蔵(追熟)中に外見がほとんど変化せず、外観の「鮮度」が内部の品質を必ずしも反映していない、という貯蔵上の課題がある。
  • 果実内部における近赤外光注1)の散乱注2)の変化に着目し、キウイフルーツの貯蔵中の軟化過程を非破壊かつ高精度で評価できた。
  • 「熟度」および「鮮度」を客観的に数値化することによって最適な貯蔵条件の確立だけでなく、果物収穫後に鮮度が劣化するメカニズムの解明や、鮮度の個別追跡管理によるフードロス削減効果が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)近赤外光:

波長が約750ナノメートル(nm)から2500 nmまでの長さの目に見えない光のことを指す。赤外線光より波長が短いため、"近"赤外光と呼ばれている。

注2)(光の)散乱:

物質が散乱すると、光はさまざまな方向に広がる。散乱される光は通常、波長やエネルギーが変わらない。

注3)飛行時間分光法:

物質の光学的特性や組成を解析するための科学的な手法である。この手法は、物質が光をどのように吸収、散乱、反射するかを調べるのに使用される。

注4)光吸収:

物質が特定の波長の光エネルギーを吸収する現象である。吸収された光は、物質内で電子のエネルギー状態を変え、通常は光の一部または特定の波長が吸収される。

注5)スペクトル解析:

さまざまな波長や周波数にわたるスペクトルデータから、情報を分析・抽出し、定性・定量分析などを行う解析の手法である。

 

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:Validation study on light scattering changes in kiwifruit during postharvest storage using time ‑ resolved transmittance spectroscopy

著者:Ma, T., Inagaki, T. & Tsuchikawa, S. 

DOI: 10.1038/s41598-023-43777-5

URL: https://doi.org/10.1038/s41598-023-43777-5

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 土川 覚 教授

http://nu-agr-se.flier.jp