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生物学

2023.12.05

デンキウナギの放電が細胞への遺伝子導入を促進する ~飼育下でゼブラフィッシュ幼魚への蛍光タンパク質導入を確認~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の榊 晋太郎 博士前期課程学生、伊藤 零雄 博士前期課程学生、阿部 秀樹 准教授、本道 栄一 教授、飯田 敦夫 助教らの研究グループは、京都大学との共同研究で、デンキウナギの放電が遺伝子組み換えの原動力になり得ることを新たに発見しました。
デンキウナギはアマゾン川流域に生息し、最大で860ボルトの放電が可能な地球上で最大の発電生物として知られています。一方、細胞生物学ではパルス電流を用いて細胞へ遺伝子を導入する手法があります。そこで研究グループは、河川環境でデンキウナギが放電した場合に、周辺の生物の細胞に作用して、水中に存在しているDNA断片(環境DNA)が細胞内に取り込まれる可能性があると仮説を立てました。
検証のため、研究室でデンキウナギを飼育し、ゼブラフィッシュ注4)稚魚をDNA溶液に浸した状態で、デンキウナギの放電に暴露する実験を行いました。その結果、ごく微量ではあるものの、遺伝子導入を示すマーカー注5)の発現が確認されました。これは、デンキウナギ由来の放電が細胞への遺伝子導入を促進する作用を持つことを示しています。本研究では、自然環境での遺伝子組み換えの原動力として、デンキウナギをはじめとした発電生物の影響を新たに提案します。
本研究成果は、2023年12月4日午前9時(日本時間)付オープンアクセス学術誌の「PeerJ - Life and Environment」に掲載されました。

 

【ポイント】

・細胞生物学ではパルス電流注1)を用いて細胞への遺伝子導入注2)を誘導する手法がある。
・自然界にも電源(デンキウナギ注3))は存在し、水中には環境DNAが遊離している。
・デンキウナギの放電が遺伝子導入を起こし得ることを、実験条件下で実証した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)パルス電流:
短時間に瞬間的に流れる電流。デンキウナギは高電圧・短時間のパルス電流を繰り返し放出することができ、相手にダメージを与える。
注2)遺伝子導入:
体外に由来する遺伝因子(DNAなど)が細胞の中に入ることを意味する。単に細胞内に入り、コードされた形質(今回の場合はGFPタンパク質)を発現することもあるが、時間と共に消失することが多い。これに対して、外来の遺伝因子の配列が染色体DNAに組み込まれることを遺伝子組換と呼ぶ。遺伝子組換によって入った遺伝子は消失することなく、分裂後の細胞でも保持され、子孫に遺伝する。
注3)デンキウナギ:
アマゾン川流域に生息するデンキウナギ目ギュムノートゥス科の発電魚。長らく1種のみとされていたが、2019年に形態的および遺伝的な特徴から3種に分類された。尾部の大部分が発電器官となっていて、全長2.5メートルに達した個体も報告されている。これまでに報告された最大電圧は860ボルトに達する。
注4)ゼブラフィッシュ:
インド原産でコイ目コイ科に属する、成魚の全長が5センチメートルほどの小型淡水魚。飼育や繁殖が容易なことから、生物学のモデル動物として世界中で普及している。疾患モデルの作成や、創薬スクリーニングなど医薬分野での応用も進んでいる。和名はシマヒメハヤ。
注5)マーカー:
目に見えないものを確認するための目印。今回の実験ではDNAという肉眼では見えないものの導入を判別するために、蛍光顕微鏡で観測可能なGFPタンパク質をマーカーとして用いた。

 

【論文情報】

雑誌名:PeerJ - Life and Environment
論文タイトル:Electric organ discharge from electric eel facilitates DNA transformation into teleost larvae in laboratory conditions.
著者:榊 晋太郎(大学院生命農学研究科)、伊藤 零雄(大学院生命農学研究科)、阿部 秀樹(大学院生命農学研究科)、木下 政人(京都大学)、本道 栄一(大学院生命農学研究科)、飯田 敦夫(大学院生命農学研究科)
DOI: 10.7717/peerj.16596
URL: https://peerj.com/articles/16596/

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 飯田 敦夫 助教
https://sites.google.com/view/animal-morphology

 

【関連情報】

インタビュー記事「デンキウナギで遺伝子実験!未知の生命現象を探せ」(名大研究フロントライン)