国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の飯島 弘貴 客員研究者(前:高等研究院YLC特任助教、現:ハーバード大学医学部 助教授)、糖鎖生命コア研究所 数理解析部門の松井 佑介 准教授(医学系研究科総合保健学専攻 准教授兼任)らの研究グループは、ハーバード大学医学部(アメリカ)のファブリシアアンブローシオ准教授との国際共同研究により、筋力トレーニングによる骨格筋老化抑制効果の分子メカニズムを明らかにしました。
加齢により骨格筋に脂肪が蓄積すると、筋力が低下し、生活の質を低下させることが知られています。筋力トレーニングはこの骨格筋の脂肪蓄積を抑制することが分かっていましたが、その分子メカニズムは謎のままでした。そこで本研究グループは、脂肪形成を担う細胞の分化過程に着目し、ネットワーク医学を基盤とした網羅的解析によって、筋力トレーニングによる骨格筋の脂肪抑制効果に係るシグナル経路を明らかにしました。本研究成果によって、骨格筋の老化メカニズム解明が進むだけでなく、筋力トレーニングの健康増進効果を再現する運動模倣薬の開発が期待されます。
本研究成果は、2023年12月15日18時(日本時間)付国際学術雑誌「The Journal of Physiology」の特別号「Physiology of Ageing Skeletal Muscle and the Protective Effects of Exercise」に掲載されました。
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注1)ネットワーク医学:
生体分子の生物学的な相互関係をネットワークを用いて表現し、そのネットワーク上で疾患や健康に関する情報を包括的かつ網羅的に解析する医学分野。この分野では、遺伝子や、タンパク質、代謝産物などがネットワーク上で相互作用する要素を解析に考慮する。例えば、タンパク質間の相互作用ネットワークや遺伝子発現の制御ネットワークを解析することで、疾患の発症メカニズムや治療法の標的となる新たな因子を発見することができる。ネットワーク医学解析は、従来の1つの遺伝子やタンパク質といった単一の視点ではなく、複数の要素を組み合わせて全体像を見ることができるため、疾患の病態生理学や新たな治療法の開発に貢献できるといわれている。
注2)シグナル経路:
細胞内で情報を伝達するための特定の経路や仕組み。細胞内での情報伝達は、外部からの刺激や環境の変化に対する細胞の反応を調節し、細胞の機能や挙動を制御する重要なプロセスになる。疾患や健康状態の理解、さらには治療法の開発において、シグナル経路の研究は重要である。例えば、がんの発生や進行における異常なシグナル伝達経路の特定や、それを標的とする新たな治療法の開発などがその例になる。
雑誌名: The Journal of Physiology特別号『Physiology of Ageing Skeletal Muscle and the Protective Effects of Exercise』
論文タイトル:Network-based systematic dissection of exercise-induced inhibition of myosteatosis in older individuals
著者: Hirotaka Iijima, PhD, PT, Fabrisia Ambrosio, PhD, MPT, Yusuke Matsui, PhD (下線は本学関係者)
DOI: 10.1113/JP285349
https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP285349
総合保健学専攻 飯島 弘貴 客員研究者
http://www.nagoya-ihealthcare.info/
インタビュー記事「リハビリ界初、筋トレ効果をネットワーク解析」(名大研究フロントライン)