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化学

2023.12.18

次世代ソフトマテリアル多孔性液晶 ~流動性材料に「ナノの孔」をあけた!!~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の河野 慎一郎 講師、田中 健太郎 教授の研究グループと名古屋工業大学大学院工学研究科の吉水 広明 准教授は、共同研究により流動性材料である液晶の中に「ナノの孔」があけられることを世界で初めて実証しました。この研究成果により次世代のソフトマテリアルとなる多孔性液晶の開発が促進されます
活性炭やゼオライト等、原子や分子の大きさのナノサイズの孔があいた多孔性(固体)材料は、ガス吸着、触媒などに応用されていますが、流動性のある材料に孔をあけようとしても、その流動性によって孔はすぐに埋められてしまいます。田中教授の研究グループでは、環状の分子を積み重ねた大環状分子液晶の研究を行ってきました。今回の研究成果は、流動性材料である大環状分子液晶の中に、「ナノの孔」が形成できることを明らかにしたことです。液晶の中にXeガス注2)を導入し、取り込まれたXe原子の化学環境や運動性を129Xe NMR分光法により解析し、「ナノの孔」の存在を明らかにしました。本研究成果は、多孔性材料を流動性注3)、配向性注4)、相転移性注5)をもつ液晶で作る方法論を示したものであり、「ナノの孔」に様々な機能性分子を取り込ませることで、触媒材料、有機薄膜太陽電池、導電性インク材料などへの応用展開が期待されます。
本研究成果は、2023年11月10日付ドイツ化学会雑誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・流動性材料である液晶中に「ナノの孔」を形成できることを、129Xe NMR分光法注1)を用い、世界で初めて明らかにした。
・多孔性材料が流動性のある物質でも作れることが明らかになった。
・機能性分子を取り込む「ナノの孔」を容易に配置できるようになるため、触媒材料、有機薄膜太陽電池、導電性インク材料などへの応用展開が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)129Xe NMR分光法:
NMR分光法とは、物質を構成する原子の中の原子核が小さな磁石として振る舞う性質を利用し、原子の化学的環境や運動性を解析する方法である。Xe(キセノン)は、周期表で54番目に位置する希ガス元素であり、多孔性物質などに取り込ませたXeをNMR分光法により解析することで、Xe原子の周りにあるナノ細孔の構造を調べることができる。
注2)Xeガス:
周期表で54番目に位置する希ガス元素。特にその同位体である129Xeは、核スピン1/2をもち、核時期共鳴(NMR)分光法を用いて検出することができる。129Xeガスを捕捉する様々な多孔性材料の細孔構造解析に用いられている。
注3)流動性:
気体や液体、液晶が示す、流れ動く性質。液晶は、液体の流動性と固体の配向性を併せ持つ物質である。
注4)配向性:
分子や分子が集まった分子組織が規則性を持って並ぶ性質。
注5)相転移性:
固体・液晶・液体・気体など、物質の状態が変わることを相転移という。相転移を起こす性質を相転移性というが、液晶には、固体や液体に相転移するだけでなく、内部で分子の並び方が変化する相転移を起こすものもある。

 

【論文情報】

掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Continuous Nanospace in Nanoporous Liquid Crystal Investigated by 129Xe NMR Spectroscopy
著者:河野慎一郎(名古屋大学)、吉水広明(名古屋工業大学)、田中健太郎(名古屋大学) (は、責任著者)
DOI:10.1002/anie.202316523
URL:https://doi.org/10.1002/anie.202316523

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 田中 健太郎 教授
https://supra.chem.nagoya-u.ac.jp