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医歯薬学

2024.01.04

GVHD 関連筋炎における病理学的特徴を解明 ~PD-1陽性細胞の浸潤と HLA-DR の発現が鑑別診断に重要~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央(かつの まさひさ)教授、數田知之(かずた ともゆき)客員研究者らの研究グループは、同種造血幹細胞移植後に発症する比較的まれな合併症である移植片対宿主病(GVHD)関連筋炎の病理において、PD-1 陽性細胞の浸潤と筋組織における HLA-DR および PD-L1 の発現が GVHD 関連筋炎の特徴であること、およびこれらの所見が関連していることを明らかにしました。
GVHD は、臓器移植の重大な合併症であり、ドナー臓器の免疫細胞が宿主の免疫反応を引き起こすことで生じます。GVHD 関連筋炎と呼ばれる筋肉の GVHD は、症状や所見が皮膚筋炎など他の筋炎と類似していますが、臨床病理学的特徴からこれらを区別することが困難で、その大きな理由が本疾患に特異的な病理学的特徴が知られていないことです。
本研究では GVHD 関連筋炎の臨床病理学的特徴を検討しました。その結果、がんの免疫療法の標的である PD-1 陽性細胞(おもにリンパ球)の浸潤と筋線維や間質における HLA-DR 発現が強くみられ、さらにこれらの所見がオーバーラップしているという病理的特徴を明らかにしました。他の筋炎と比較すると、同様の発現パターンが抗 ARS 抗体症候群関連筋炎(ASM)でも認められましたが、皮膚筋炎では認められませんでした。また、HLA-DR 陽性筋線維と PD-1 陽性細胞の割合は、GVHD と ASM のサンプルで皮膚筋炎のサンプルより有意に高いことを示しました。
本研究から、PD-1 陽性細胞の浸潤や HLA-DR 発現が GVHD 関連筋炎と皮膚筋炎の鑑別診断に役立つことが期待されます。
本研究成果は、米国科学雑誌「Annals of Clinical and Translational Neurology」(2023 年 12 月 28 日付けの電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

・骨格筋を標的とする移植片対宿主病(GVHD)*1関連筋炎は、比較的まれではあるが、同種造血幹細胞移植後に起こる合併症の一つである。
・GVHD 関連筋炎は皮膚筋炎*2など他の筋炎と区別することが困難であり、その理由の一つは本疾患に特異的な病理学的特徴が知られていないことである。
・本研究では、複数の患者の臨床的および病理組織学的検査を行い、GVHD 関連筋炎患者の筋組織に PD-1*3を発現する免疫細胞(おもにリンパ球)が浸潤していることを発見し、その分布が筋組織における HLA-DR*4の発現および PD-L1*5の発現と関連していることを明らかにした。
・同様の発現パターンは、抗 ARS 抗体症候群関連筋炎*6でも認められたが、皮膚筋炎では認められなかったことから、これらの所見は GVHD 関連筋炎と皮膚筋炎の鑑別診断に役立つことが示された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 慢性移植片対宿主病(GVHD):造血細胞の移植後に生じる合併症であり、ドナー由来のリンパ球が患者さんの正常な臓器を異物と認識して攻撃することで起きてきます。
*2 皮膚筋炎:ヘリオトロープ疹などの典型的な皮膚症状を呈する筋炎であり間質性肺炎や悪性腫瘍を伴うことがあります。抗 TIF1-γ抗体や抗MDA5 抗体などの原因となる自己抗体が判明しています。
*3 PD-1:Program cell death-1 という活性化T細胞の表面に発現する分子であり、PD-L1 または PD-L2 という分子に結合することで免疫細胞の活性化を抑制するシグナルを発生させます。癌や自己免疫疾患などで免疫応答に重要な役割を果たすことが知られています。
*4 HLA-DR:一般には樹状細胞やマクロファージといった抗原提示細胞といわれる細胞の表面に発現する分子であり、細胞が貪食した抗原をヘルパーT細胞に提示するヒト主要組織適合性複合体を構成します。抗原提示細胞以外の組織にも発現することが知られていますが、その役割についてはよくわかっていません。
*5 PD-L1:Programmed cell Death ligand 1 は PD-1 のリガンド(結合する分子という意味)であり、様々な組織の細胞表面に発現して免疫応答を抑制するとされています。
*6 抗 ARS 抗体症候群関連筋炎:抗アミノアシル tRNA 合成酵素(aminoacyl transfer RNA synthetase; ARS)抗体という自己抗体が原因で生じる間質性肺炎や皮膚症状、筋炎などの症状を呈する病気を抗ARS抗体症候群と呼びます。以前は皮膚筋炎もしくは多発性筋炎と診断されることもありましたが、現在は自己抗体が判明したため別の疾患として区別されています。

 

【論文情報】

雑誌名:Annals of Clinical and Translational Neurology
論文タイトル:Clinicopathological features of graft versus host disease-associated myositis
著者名・所属名:
Tomoyuki Kazuta, MD,1,2 Ayuka Murakami, MD, PhD,1,3 Seiya Noda, MD, PhD,1,3 Satoko Hirano, MD,1,3 Hiroshi Kito, MD,1,3 Koyo Tsujikawa, MD, PhD,1 Hirotaka Nakanishi, MD, PhD,4 Seigo Kimura, MD,3 Kentaro Sahashi, MD, PhD,1 Haruki Koike, MD, PhD,1,5 Masahisa Katsuno, MD, PhD1,6
1 Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Neurology, Chutoen General Medical Center, Kakegawa, Japan
3 National Hospital Organization Suzuka National Hospital, Suzuka, Japan
4 Department of Neurology, Yokkaichi Municipal Hospital, Yokkaichi, Japan
5 Division of Neurology, Department of Internal Medicine, Saga University Faculty of Medicine, Saga, Japan
6 Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
DOI: 10.1002/acn3.51973

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ann_231228en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 勝野 雅央 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/neurology/