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医歯薬学

2024.01.25

線維筋痛症における慢性疼痛発症メカニズムの解明 ~固有感覚異常による疼痛誘導とミクログリアによる疼痛記憶~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・木村 宏)機能組織学分野の木山 博資(きやま ひろし)教授、桐生寿美子(きりゅう すみこ)准教授、研究員の若月康次(わかつき こうじ)と常葉大学健康プロデュース学部の安井正佐也(やすい まさや)准教授の研究グループは、線維筋痛症で見られる異常な痛みの原因のひとつとして、通常意識にのぼらない固有(深部)感覚※1 の持続的な過興奮が、脊髄内の反射弓※2 に沿って、神経炎症に関わるミクログリア※3 を活性化させ、これにより慢性疼痛が生じていることを脳内の過活動神経回路をトレースできるマウスモデル動物を用いた実験で明らかにしました。
線維筋痛症は、身体に炎症や損傷など明らかな原因がないのに、慢性的な異常筋痛や過度の疲労感が生じる原因不明の病気です。近年の研究で、原因は脳や脊髄内の炎症の可能性が示されています。しかし、なぜ脳や脊髄に炎症が生じるのか原因は不明であり、現在でも効果のある治療法は開発されていません。今回の研究成果は、ストレス等によって一部の筋緊張あるいは固有感覚の過興奮が長期におよぶことにより、通常意識にのぼらない固有感覚の過興奮がミクログリアを介して痛みを引き起こすことを示しており、神経障害性疼痛や炎症性疼痛とは異なる新しい痛み発生のメカニズムを示したもので、今後線維筋痛症の患者さんの痛みを和らげる治療の標的として、筋緊張の抑制が浮かび上がってきました。本研究は独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金の支援を受けて行われました。本研究成果は国際科学誌「Journal of Neuroinflammation 」(米国時間 2024 年 1 月 18 日付の電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○線維筋痛症のマウスモデルを用いて、疼痛発症の原因を調べたところ、一部の筋の固有感覚の過活動と、脊髄の限局した領域にミクログリアの活性化と集積が見られました。
○脳内で過剰に活動しているニューロンを蛍光標識できるマウスを開発し、線維筋痛症モデルを検討したところ、反射弓に沿った神経回路が蛍光標識され、この反射弓に沿ってミクログリアが活性化していることが明らかになりました。
○ミクログリアを薬剤で抑制すると、疼痛は抑制されました。線維筋痛症モデルマウスでは継続した筋緊張が固有感覚ニューロンの過活動を介してミクログリアを局所的に活性化し、ミクログリア活性化の持続が疼痛の慢性化につながっていることが動物レベルで明らかになりました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(※1)固有感覚:体性感覚には、温痛覚、触圧覚、固有感覚があります。このうち筋や腱、関節などの伸びや引っ張り、曲がり具合といった通常あまり意識にのぼらない感覚を深部感覚あるいは固有感覚といいます。固有感覚ニューロンは、筋紡錘と呼ばれる筋の伸びを検知する受容器やゴルジ腱器官と呼ばれる腱の張力を検知する受容器の情報を脊髄に伝えます。
(※2)反射弓:ここでいう反射とは、例えば意図せずに生じた筋の伸びを感知して脊髄に情報を送り、脊髄運動ニューロンから、姿勢が崩れないようにバランスをとるための筋収縮の命令を出す仕組みです。反射弓は、上位の脳の作用を受けずに脊髄だけで体のバランスを取るための情報が流れる道筋(回路)をいいます。
(※3)ミクログリア:脳や脊髄(中枢神経)に存在する免疫担当細胞です。ミクログリアは正常な脳や脊髄では細長い突起を動かしながら周囲の環境に異常がないかを監視しています。ニューロンに異常が生じると、活性化して神経細胞にとっては毒性のある炎症性物質(炎症性サイトカインなど)や、場合によっては保護因子を産生する二面性のある細胞です。同時に、ミクログリアは脳内の異物や死んだ細胞の残骸を貪食し取り除いてくれる細胞です。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Neuroinflammation
論文タイトル:Repeated cold stress, an animal model for fibromyalgia, elicits proprioceptor-induced chronic pain with microglial activation in mice
著者名・所属名:Koji Wakatsuki1, Sumiko Kiryu-Seo1*, Masaya Yasui1,2, Hiroki Yokota3, Haruku Kida1, Hiroyuki Konishi1, Hiroshi Kiyama1*
1 Department of Functional Anatomy and Neuroscience, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Aichi 466-8550, Japan
2 Department of Judo Seifuku and Health Sciences, Tokoha University, 1230 Miyakoda-cho, Kita-ku, Hamamatsu, Shizuoka 431-2102, Japan
3 Department of Mechanical Engineering, Meijo University, 1-501 Shiogamaguchi, Tenpaku-ku, Nagoya, Aichi 468-0073, Japan
DOI: 10.1186/s12974-024-03018-6

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_240125en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 木山 博資 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/Anatomy2/

 

【関連情報】

インタビュー記事「研究者もなんとかしたい、つらい慢性疼痛」(名大研究フロントライン)