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化学

2024.01.30

押すと色が変わり、元の色に戻せる紙: メカノクロミック材料を含むセルロースナノファイバー紙

名古屋大学大学院工学研究科および未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾 豊 教授,東京都立産業技術研究センターの小汲佳祐 主任研究員らの研究グループは、押圧により色が変化するメカノクロミック材料とセルロースナノファイバー(CNF)を用いて、機械的な圧力に応じて黄色から緑色へ色が変わる紙を開発しました。ナノインプリント試験と紫外可視分光法を組み合わせた定量的な実験により、この色が変化する紙は 25~300 MPa の範囲で機械的圧力に対して線形応答を示しました。また、色が緑色に変化した紙にアルコールを噴霧することにより、元の黄色に戻りました。走査型電子顕微鏡や接触角分析などの表面研究により、色の変化の可逆性がCNFの直径に依存することが明らかになりました。さらに、CYM色彩解析を用いた簡易な画像処理手法により、機械的圧力の分布を可視化することができました。つまり、押した圧力の数値がわかり、圧力分布を可視化できる、繰り返し使用可能な圧力測定紙として用いることができることを示しました。
圧力測定用のフィルムは既に市販されていますが、今回の成果物はメカノクロミック材料の性質によって何度も使用できる点に新規性があり、今後の改良次第では電子・機械産業での用途開発に期待がもたれます。また、本研究によりメカノクロミック材料の基礎研究が深化するとともに、CNFの応用範囲が計測、機械工学などの新たな分野に拡大されることが期待されます。
本研究成果は、2024年1月26日付アメリカ化学会の学術誌『ACS Applied Engineering Materials』のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・メカノクロミック材料注1)とセルロースナノファイバー注2)を用いて、押圧により黄色から緑色に色が変わる紙を作製した。
・アルコールと接触させることにより、緑色から元の黄色に戻せる。
・押した圧力の強さや圧力分布を可視化する、繰り返し利用可能な圧力測定紙となる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) メカノクロミック材料:
外部からの機械的刺激により色が変わる化合物。多くのメカノクロミック材料は発光色が変化するが、FA化合物は吸収色が変化する。
注2) セルロースナノファイバー(CNF):
木材を機械処理や化学処理によりナノサイズまでほぐした天然物由来の材料。詳しくは本文参照。

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Applied Engineering Materials
論文タイトル:Color-changing Paper - Cellulose Nanofiber Films Incorporating Mechanochromic Fluorenylidene-Acridane
著者:小汲 佳祐, 荒川 岳大, 奥寺 文吾, 瀧本 悠貴, 永田 晃基, 三柴 健太郎, 阿部 英嗣, 上野 智永, 稗田 純子, 表 研次, Hao-Sheng Lin, 松尾 豊*
*:責任著者、下線:名古屋大学
DOI: 10.1021/acsaenm.3c00702
URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsaenm.3c00702

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 松尾 豊 教授
http://www.matsuo-lab.net