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農学

2024.02.14

森から里への招かれざる虫とその共生菌 ~マンゴー生立木に見られる穿孔と衰弱・枯死の原因を特定~

名古屋大学大学院生命農学研究科の梶村 恒 教授、姜 自如(ジャン ジル) 元研究員、同大学農学部の田上 萌々 元学生は、森林総合研究所の升屋 勇人 室長、アメリカ ミシガン州立大学農・天然資源学部、琉球大学農学部の亀山 統一 助教、神戸大学大学院農学研究科との共同研究で、マンゴーの生立木に穿孔するナンヨウキクイムシ(養菌性キクイムシの一種)が糸状菌のフザリウム・クロシウムと共生し、この共生菌がマンゴーの樹体を通水不能にして枯死させることを初めて実証しました。
近年、世界各地で、養菌性キクイムシが森林から人里に現れ、果樹や庭園木などに穿孔し、衰弱・枯死させています。本研究では、沖縄本島のマンゴー農園で発生した事例について、原因を突き止めました。マンゴーの枯死木から成虫になって出現したのは、ナンヨウキクイムシでした。菌嚢注3)がある雌成虫の頭部で高頻度に見出されたのは、糸状菌のフザリウム・クロシウムでした。この虫と菌の共生関係(組み合わせ)は世界初でした。そして、フザリウム・クロシウムを培養してマンゴーの苗木に接種すると、数日で衰弱し始め、最終的に枯れました。
この成果は、昆虫と菌類のパートナーシップにおける新知見であり、宿主木の開拓に伴う生物間相互作用を理解する上で重要な示唆を与えます。また、樹木病害の防止対策の立案や、人里への進出による害虫化の根源解明に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年12月7日付国際科学雑誌「Scientific Reports」(Springer Nature社)にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・近年、世界各地で、本来は森林に生息する昆虫の養菌性キクイムシ注1)が人里に現れ、果樹や庭園木などに穿孔している。穿孔された木は衰弱・枯死する場合がある。
・沖縄本島のマンゴー枯死木からナンヨウキクイムシ注2)を発見し、その雌成虫が糸状菌のフザリウム・クロシウムを共生させていることを初めて明らかにした。また、この糸状菌がマンゴー苗木を衰弱・枯死させることを実証した。
・昆虫と菌類のパートナーシップにおける新知見であり、宿主木の開拓に伴う生物間相互作用を理解する上で重要な示唆を与える。また、樹木病害の防止対策の立案や、人里への進出による害虫化の根源解明に貢献することが期待される。
 

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)養菌性キクイムシ:
ゾウムシ科のキクイムシ亜科とナガキクイムシ亜科に属する甲虫のうち、菌類を栽培して食物とする習性を持つグループを指す。樹体内に坑道(トンネル)を掘り、その内壁に下記の菌嚢から共生菌を接種する。一部の種は、共生菌あるいは随伴菌に植物病原菌が含まれ、生立木を衰弱・枯死させる害虫となっている。
注2)ナンヨウキクイムシ:
学名でユーワラセア・フォルニカートゥスである。近縁な数種が過去に同じ学名(種群)として取り扱われていたが、現在ではそれぞれ別の学名が与えられている。
注3)菌嚢:
昆虫が体内に菌類を貯蔵し、運搬する特別の器官を指す。嚢とは、袋という意味である。キクイムシの場合は、口の中、胸部の背面や側面、上翅の基部、脚の付け根など、その位置や形状が著しく多様化している。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Fusarium kuroshium is the primary fungal symbiont of an ambrosia beetle, Euwallacea fornicatus, and can kill mango tree in Japan
著者:Zi-Ru Jiang (姜 自如:名古屋大学大学院生命農学研究科 元研究員)、Momo Tanoue(田上 萌々:名古屋大学農学部 元学生)、Hayato   Masuya(升屋 勇人:森林総合研究所きのこ・森林微生物研究領域 室長))、Sarah M. Smith(アメリカ ミシガン州立大学農・天然資源学部 学芸員)、Anthony I. Cognato(アメリカ ミシガン州立大学農・天然資源学部 教授)、Norikazu Kameyama(亀山 統一:琉球大学農学部 助教)、Keiko Kuroda(黒田 慶子:神戸大学大学院農学研究科 名誉教授)、Hisashi Kajimura (梶村 恒:名古屋大学大学院生命農学研究科 教授)
DOI: 10.1038/s41598-023-48809-8
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-023-48809-8

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 梶村 恒 教授
https://forest-protection-nu.jimdofree.com/

 

【関連情報】

インタビュー記事「沖縄のマンゴーを枯らす真犯人を特定」(名大研究フロントライン)