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医歯薬学

2024.02.16

間質性肺疾患の肺血管抵抗は軽度の上昇でも予後に悪影響を与える

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 呼吸器内科学講座の佐藤智則 大学院生、寺町涼 病院助教、阪本考司 病院講師、石井誠 教授、名古屋大学医学部附属病院 メディカル IT センターの古川大記 副センター長、公立陶生病院の近藤康博副院長らの共同研究グループは、新たに診断された間質性肺疾患の患者さんにおける PVRの軽度上昇が高い死亡率と関連していることを新たに発見しました。
肺高血圧症(PH)*1)は肺血管の異常を示す疾患であり、平均肺動脈圧(MPAP)*2)と肺血管抵抗(PVR)*3)の上昇が特徴です。間質性肺疾患(ILD)*4)は、元々柔らかい肺が線維化して固くなる病気で、多くの癌より予後不良である特発性肺線維症も含みます。また、ILD ではMPAP が上昇するとさらに予後不良になりますが、PVR の影響は十分に解明されていませんでした。この研究では、2007 年から 2018 年までに ILD と診断されて右心カテーテル*5)検査を施行した患者さんにおける、初回診断時の MPAP と PVR 値による生存率の影響を解析しました。
その結果、PVR は既存の予後因子から独立して、予後に強く関連していることがわかりました。さらに、PVR が軽度上昇(> 2 Wood Units)とした場合、これまで重要とされてきたMPAP の値に関わらず、高い死亡率と関連していることがわかりました。
本研究で得られた結果から、ILD 診断時から、PVR と MPAP を同時に解釈することが重要であることがわかりました。
本研究成果は、英国の医学雑誌『Thorax』(2024年2月 5 日付)に掲載されました。

 

【ポイント】

・肺高血圧症(PH)は平均肺動脈圧(MPAP)と肺血管抵抗(PVR)の上昇が関連しており、肺血管の異常を示す疾患です。そして、PH を合併した間質性肺疾患(ILD)の患者さんの予後は悪いことが知られています。
・新たに診断された ILD の患者さんを対象に解析した結果、これまで PH で重要とされてきたMPAP の値に関わらず、PVR の軽度上昇(PVR > 2 Wood Units)が、高い死亡率と関連していることを明らかにしました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1)肺高血圧症:様々な原因で肺動脈内の血管が狭くなり血圧が上昇する状態です。
*2)平均肺動脈圧:最新の肺高血圧ガイドラインでは、平均肺動脈圧が 20 mm Hg を超えた状態と定義されています。
*3)肺血管抵抗:右心カテーテル検査で測定される平均肺動脈圧と肺動脈楔入圧、心拍出量によって計算される値です(肺血管抵抗=(平均肺動脈圧―肺動脈楔入圧)/心拍出量)。
*4)間質性肺疾患:肺が慢性的に侵される多様な肺疾患です。原因は様々であり、その他の難病が原因で発症する事も少なくありません。間質性肺疾患の中でどの疾患なのか診断する事で治療方針が変わりますが、本邦を含めた世界中で診断自体が困難です。
*5)右心カテーテル検査:心臓と血管の状態を評価するための検査であり、肺高血圧症の確定診断に必要です。

 

【論文情報】

雑誌名:Thorax
論文タイトル:Mild elevation of pulmonary vascular resistance predicts mortality regardless of mean pulmonary artery pressure in mild interstitial lung disease
著者名・所属名:
Tomonori Sato1, Taiki Furukawa1,2, Ryo Teramachi1,2, Jun Fukihara3, Yasuhiko Yamano3, Toshiki Yokoyama3, Toshiaki Matsuda3, Kensuke Kataoka3, Tomoki Kimura3, Koji Sakamoto1, Makoto Ishii1, Yasuhiro Kondoh3
1 Department of Respiratory Medicine, Faculty of Medicine, Graduate School of Medicine, Nagoya University, Nagoya, Japan
2 Medical IT Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
3 Department of Respiratory Medicine and Allergy, Tosei General Hospital, Seto, Japan
DOI: 10.1136/thorax-2023-220179

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Tho_240216en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 古川 大記 講師
https://www.nu-mitc.org/