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医歯薬学

2024.02.15

特発性大腿骨頭壊死症の新たなメカニズムを解明 ~阻血性骨壊死における細胞老化を標的とした新たな治療アプローチの可能性~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の岡本 昌典医員(研究当時)、中島 宏彰 准教授、今釜 史郎 教授、同研究科顎顔面外科学の日比 英晴 教授、同大学医学部附属病院歯科口腔外科の酒井 陽 助教らの研究グループは、特発性大腿骨頭壊死症に細胞老化が関与していることを新たに発見しました。
特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨の骨頭部の血流の低下により壊死に陥り、壊死した骨組織が潰れることで股関節機能が失われる難治性疾患です。その原因は明確ではありません。
本研究グループは、大腿骨頭壊死症患者から手術時に摘出した骨頭の分析を行うことで、骨頭内部の健常層と壊死層の間の移行層に老化細胞の蓄積していることを明らかにしました。さらに老化細胞が炎症を引き起こす様々な因子を放出する SASP と呼ばれる現象を引き起こし、大腿骨頭壊死症の移行層にこの SASP 因子が存在することを認めました。阻血性骨壊死マウスモデルを用いた実験結果では、細胞老化を抑えることにより骨の圧潰を予防することが示されました。
本研究の成果により、特発性大腿骨頭壊死症に対して細胞老化が新たな治療標的へとなり得ることへの臨床展開が期待されます。
本研究成果は、2024 年 2 月 9 日付の国際科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

 

【ポイント】

・特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭の血流低下による阻血(*1)性骨壊死のために股関節機能が失われる難病です。
・本研究グループは今回の研究で、特発性大腿骨頭壊死症と細胞老化(*2)の関与を明らかにしました。
・大腿骨頭の壊死層のみならず、修復移行層においても老化細胞の蓄積と SASP(細胞老化随伴分泌現象)(*3)が発生していることが分かりました。
・阻血性骨壊死モデルにおいて、間葉系幹細胞培養上清液の投与により細胞老化を抑制し、骨の圧潰を予防することが示されました。
・特発性大腿骨頭壊死症における細胞老化を標的とした新たな治療法が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1)阻血:血流が一時的または永続的に阻まれること。阻血されると組織は壊死します。
*2)細胞老化:細胞が様々な原因により修復不可能な DNA 損傷がおこることで誘導される不可逆的細胞増殖停止現象です。
*3)SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype):細胞老化随伴分泌現象。老化細胞が炎症性サイトカイン、細胞外マトリックス分解酵素など様々な分泌因子を放出する現象です。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Cellular senescence is associated with osteonecrosis of the femoral head while mesenchymal stem cell conditioned medium inhibits bone
collapse
著者名・所属名:Masanori Okamoto1), Hiroaki Nakashima1), Kiyoshi Sakai2), Yasuhiko Takegami1), Yusuke Osawa1), Junna Watanabe2), Sadayuki Ito1), Hideharu Hibi2), Shiro Imagama1).
1) Department of Orthopaedic Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine
2) Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine
DOI:10.1038/s41598-024-53400-w

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_240215en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 今釜 史郎 教授
http://meidai-seikei.jp/