TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2024.02.26

ヨウ素摂取量が多い地域におけるバセドウ病放射性ヨウ素内用療法に対するヨウ化カリウムとヨウ素制限期間の影響

名古屋大学大学院医学系研究科の加藤 克彦 教授、田村 美香 博士後期課程学生らの研究グループは、北光記念病院放射線科との共同研究で、バセドウ病に対して131I放射性ヨウ素内用療法施行時のヨウ素制限があまり重要でない可能性があることを新たに発見しました。
131I放射性ヨウ素内用療法では、放射性ヨウ素を効率よく甲状腺に取り込ませるため、治療の前にヨウ素摂取の制限を行います。本研究では、ヨウ素摂取量が多い地域として、愛知県と北海道のバセドウ病患者185人を対象に、後ろ向き研究を行いました。抗甲状腺薬またはヨウ化カリウムによる前治療に基づき4つのグループ注5)に分け、131I放射性ヨウ素内用療法前のヨウ素制限の期間、24時間ヨウ素摂取率、尿中ヨウ素濃度と131I放射性ヨウ素内用療法の成功率の関連を調べました。ヨウ素制限により、尿中ヨウ素濃度の十分な減少が達成されましたが、治療時の尿中ヨウ素濃度と成功率の関連はありませんでした。
本研究では、バセドウ病に対して131I放射性ヨウ素内用療法を施行する場合、治療前のヨウ素制限ではあまり厳格な制限は必要でない可能性があることが示唆されました。
本研究成果は、2023年11月27日付ヨーロッパ会学会誌「European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging」Impact Factor 9.1のオンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・ヨウ素注1)摂取量が多い地域において、バセドウ病注2)の治療のための131I放射性ヨウ素内用療法注3)を行う場合の、前処置としてのヨウ素制限の必要性を調べるため、バセドウ病患者185人を対象に後ろ向き研究注4)を行った。
・ヨウ素制限により、尿中ヨウ素濃度の十分な減少が達成されたが、治療時の尿中ヨウ素濃度と成功率の関連はなかった。
・ヨウ素摂取量が多い地域でも、バセドウ病に対して131I放射性ヨウ素内用療法する場合、厳格なヨウ素制限は必要がない可能性がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ヨウ素:甲状腺ホルモンの原料です。ヨウ素は日本人にとって身近な海藻や魚介類に多く含まれています。

 

注2)バセドウ病:甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが多くなりすぎてしまうことにより、体重減少や脈が速くなる頻脈など全身にさまざまな症状が現れる病気で、甲状腺機能亢進症を起こす代表的な病気です。

 

注3)131I放射性ヨウ素内用療法:甲状腺がヨウ素を取り込む性質を有していることを利用し、131Iと呼ばれる放射線を放出するヨウ素(131Iカプセル)を内服するだけの簡単に行える治療です。治療に使われる131I放射性ヨウ素は、放射性でないヨウ素と同様の機序で甲状腺に取り込まれます。そこで放射線(べータ線)が作用して甲状腺の細胞を壊し、甲状腺ホルモンの量を減らします。

 

注4)後ろ向き研究:過去に遡って対象者のデータを収集して行う研究です。

 

注5)4つのグループ:愛知県の抗甲状腺剤だけを投与されたグループ、愛知県の抗甲状腺剤とヨウ化カリウムを投与されたグループ、北海道の抗甲状腺剤だけを投与されたグループ、北海道の抗甲状腺剤とヨウ化カリウムを投与されたグループ。

 

【論文情報】

雑誌名:European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging
論文タイトル:Effect of previous administration of potassium iodine and different durations of low iodine diets for radioiodine therapy on the treatment of Graves' disease in iodine-rich areas.
著者:Mika Tamura, Kunihiro Nakada, Haruna Iwanaga, Naotoshi Fujita, Katsuhiko Kato.(※下線は本学関係者)
DOI: 10.1007/s00259-023-06523-7 
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38008728/                    

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科総合保健学専攻 加藤 克彦 教授