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情報学

2024.03.21

対話AIの性格特性の進化に成功! ~AI集団が創る社会は協力的か利己的か?~

名古屋大学大学院情報学研究科の有田 隆也 教授、鈴木 麗璽 准教授らの研究グループは、大規模言語モデル(LLM)を用いた対話AIの性格特性を進化させることに成功しました。
近年、ChatGPTのようなLLMに基づく対話AIエージェントを用いたサービスが急速に社会に浸透し、身近な存在になりつつあります。本研究では、LLMが任意の性格を持った人のように振る舞うことが得意な性質を利用して、様々な性格を持ったAIエージェントが集団をつくって生存競争を繰り広げたら、世代が進むにつれどのような社会が出来上がるかを検討しました。
実験では、利己的な性格を持った集団から協力的な性格を持った集団へ次第に進化していく様子が観察されました。一方、協力的すぎる集団は再び利己的なエージェントに取って代わられるなど、エージェント社会にも人間社会と同様に動的な側面があることが分かりました。また、例えば「gently(優しく)」が性格の記述に含まれるエージェントは特に協力しやすいなど、行動をよく特徴づける言葉があることも分かりました。
この成果は、LLMを進化モデルに組み込み詳細な言語表現を用いることで人間の性格特性の進化的基盤について検討できることを示すと同時に、人間社会に貢献するAIエージェントが持つべき特徴や、AIエージェントに対する人間の接し方、遠くないうちに来るだろうAI社会やAIと人間が混在する社会の設計指針につながる知見をもたらすことが期待されます。
本研究成果は、2024年3月19日19時(日本時間)付国際科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されます。

 

【ポイント】

・ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)注1)に基づく対話AIエージェントが社会に与える影響や、人間と築く社会の理解が重要になりつつある。
・本研究では、多様な性格を持つAIエージェントが社会的ジレンマ注2)に基づく生存競争を繰り広げると、世代が進むにつれどのような協力社会が出来上がるかを検討した。
・利己的な集団と協力的な集団の入れ替わりが観察され、人間社会と同様に動的な側面があることや、行動を特徴づける性格記述があることなどが分かった。
・この成果は、LLMを用いて人間の性格特性の進化的基盤を検討できることを示すとともに、社会に貢献できるAIエージェントや、AI社会の設計指針につながる知見を生むことが期待される。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)大規模言語モデル(Large language model, LLM):
ChatGPTのような、膨大なテキストデータを学習した巨大なニューラルネットを用いて、人間の言葉を受け取り、それに対応する新たな文章を作り出す能力を持つ人工知能のこと。
注2)社会的ジレンマ:
個人の利益の追求が集団や社会全体の利益を害する状況のこと。

 

【論文情報】

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: An evolutionary model of personality traits related to cooperative behavior using a large language model
著者: Reiji Suzuki and Takaya Arita, Graduate School of Informatics, Nagoya University, Japan       
DOI: 10.1038/s41598-024-55903-y

 

【研究代表者】

大学院情報学研究科 鈴木 麗璽 准教授
http://www.alife.cs.i.nagoya-u.ac.jp/~reiji/

 

【関連情報】

インタビュー記事「AI集団1000世代がジレンマゲーム?性格進化は何を語るか」(名大研究フロントライン)