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総合理工

2024.03.18

X線自由電子レーザーの極限的7 nm集光を実現 ―ピーク強度10²² W/cm²に達する世界最高光子密度のX線レーザー―

大阪大学大学院工学研究科の山田純平助教、山内和人教授、名古屋大学大学院工学研究科の松山智至准教授、理化学研究所放射光科学研究センターの矢橋牧名グループディレクター、井上伊知郎研究員、高輝度光科学研究センターの大橋治彦主席研究員らの共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)※1の極限的7ナノメートル(nm)※2のスポット集光を実現し、1022 W/cm2のピーク強度※3を達成しました。これはミラーに入射するXFELの強度を1億倍に増幅したことに相当する、世界最高X線強度です。また、可視光分野も含んだレーザー強度のトップクラスに比肩する値です。
XFELを集光する際には、高強度の入射X線レーザーによる集光光学系へのダメージを防ぐために、入射光を非常に浅い角度にて分散して受け止める楕円形状X線ミラーが利用されます(2012年12月プレスリリース※4)。これまでに超高精度なX線ミラーの作製法は確立されてきましたが(2018年11月プレスリリース※5)、集光状態の不安定性に大きな課題があり、理論的には達成可能なはずの10 nmを下回るような集光サイズの実現には至っていませんでした。
今回、研究グループは、凹面と凸面を組み合わせたX線集光ミラー光学系を新たに開発し、高い安定性のもとXFELの7 nm集光を実現しました。これによって,従来までのX線強度よりも100倍以上高いX線ピーク強度1.45×1022 W/cm2が達成されました。さらに、生成した集光ビームを金属原子(クロム: Cr)に照射したところ、全ての電子を吹き飛ばすほどの劇的な反応が生じていることがわかりました。本研究によって実現された超高強度のXFELビームを用いることで宇宙物理、高エネルギー物理や量子光学などの基礎物理分野において、未だ観察されていないさまざまな物理現象の発見が期待されます。また、タンパク質などの立体構造を解明することにも貢献し、医学・創薬に役立つ単分子構造解析技術の開発につながるものと期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Photonics」に、2024年3月15日(金)19時(日本時間)に公開されます。

 

【ポイント】

◆ X線レーザーを7x7 nmのスポットサイズに集光してピーク強度1022 W/cm2を達成
◆ 独自のX線ミラーを作製することで、科学計測に真に実用可能な極限的X線集光ビームが実現
◆ 本研究によって実現した高強度X線レーザー場によって、X線非線形光学などの新たなX線科学の開拓が期待できる

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)
X線自由電子レーザーとは、X線領域の波長をもつレーザーのことである。一般的なレーザーとは異なり、物質中から真空中に抜き出された電子(自由電子)を使用してレーザー光を発生させる。XFELの光の特徴は、次の①から④の全ての性質を同時に備えている点である。 ①物質を構成する最小単位である原子とほぼ同じ、微小なサイズ(100億分の1メートル)の波長をもつこと(X線であること) ②光の波が完全にそろっていること(レーザーであること) ③非常に高い輝度をもつこと(放射光X線の10億倍の明るさ) ④超短パルス光であること(カメラのフラッシュのように光の時間幅が短い(100兆分の1秒)こと)。

 

※2 ナノメートル(nm)
1メートル(m)の10億分の1の大きさを指す。仮に地球の大きさを1 mまで縮小したときに、パチンコ玉が1 nm、ゴルフボールが3 nm、ソフトボール3号球が7 nmの大きさに相当する。また一般的に、水の分子サイズが約0.4 nm、DNAの幅が約2 nmとされている。

 

※3 ピーク強度
レーザーの時空間的なエネルギーの大きさを表す指標として用いられる。レーザーパルスの出力(エネルギー)をパルス幅(光の時間幅)と集光サイズ(光の空間領域)で割った値として、W/cm2(ワット 毎 平方センチメートル)の単位で表される。これまでに、可視光レーザーのピーク強度として量子科学技術研究開発機構関西光量子科学研究所のJ-KARENが1022 W/cm2の日本記録を、韓国の基礎科學研究院・超強力レーザー科學研究団が1023 W/cm2の世界記録を報告している。

 

※4 2012年12月プレスリリース
世界最強X線レーザービームが誕生 ―原子レベルの精度を持つ鏡により、1マイクロメートルの集光ビームを実現―
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2012/121217/

 

※5 2018年11月プレスリリース
X線レーザーを10nm以下まで集光できる鏡を開発 ―1nmレベルで精密な多層膜鏡作製技術を確立―
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20181128_3

 

【論文情報】

本研究成果は、2024年3月15日(金)19時(日本時間)に英国科学誌「Nature Photonics」(オンライン)に掲載されます。
タイトル:“Extreme focusing of hard X-ray free-electron laser pulses enables 7-nm focus width and 1022 W/cm2 intensity”
著者名:Jumpei Yamada, Satoshi Matsuyama, Ichiro Inoue, Taito Osaka, Takato Inoue, Nami Nakamura, Yuto Tanaka, Yuichi Inubushi, Toshinori Yabuuchi, Kensuke Tono, Kenji Tamasaku, Hirokatsu Yumoto, Takahisa Koyama, Haruhiko Ohashi, Makina Yabashi, and Kazuto Yamauchi
DOI:https://doi.org/10.1038/s41566-024-01411-4
なお、本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 若手研究(23K17149)、基盤研究(S)(21H05004)の一環として行われました。

 

【研究代表者】

大学院工学研究科附属クリスタルエンジニアリング研究センター 松山 智至 准教授
https://x-ray.mp.pse.nagoya-u.ac.jp