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化学

2024.03.11

PCR停止プライマーを用いた高効率なDNA連結法を開発 ~DNAライブラリー構築や、ゲノム合成などへの広い応用に期待~

名古屋大学大学院理学研究科の阿部 洋 教授、橋谷 文貴 助教、木村 康明 准教授、野村 浩平 博士後期課程学生らの研究グループは、東京大学の浅井 潔 教授、寺井 悟朗 特任准教授、岐阜大学の岡 夏央 准教授、理化学研究所の清水 義広 博士との共同研究で、高効率なDNA連結を可能にするPCR停止プライマーを開発しました。このPCR停止プライマーを用いて調製したDNA断片を用いることで、高い効率での連結を達成しました。この手法では、光で除去できるo-ニトロベンジル基を導入したプライマーを用いてPCRを行うことで、ポリメラーゼ注6)の鎖伸長反応を修飾導入位置で停止させ、接着末端を形成することができます。
本技術の特徴は、接着末端の長さや配列を自由に設計できる点です。これにより、長鎖の接着末端を形成することが可能となり、DNAの連結効率が向上しました。また、様々な配列を設計できるため、複数の断片を同時に連結することも可能です。
従来の制限酵素を用いたDNA連結法では、連結できるDNAの長さに制限がある点や、連結効率が低い点が課題でした。本技術ではこれらの課題を克服した新たなDNA連結技術として、分子生物学や、遺伝子工学、合成生物学といった幅広い分野の研究で貢献する可能性があります。例えば、DNAライブラリーの構築を通じたタンパク質設計や核酸の機能の向上、長鎖DNAの合成によるゲノムの機能解明や医薬品開発につながるゲノムの創製などが期待できます。
本研究成果は、2024年2月26日付イギリス王立化学会(RSC)が発行する雑誌「RSC Chemical Biology」に掲載されました。

 

【ポイント】

・DNAのリン酸部へo-ニトロベンジル注1)修飾を導入した、PCR注2)停止プライマー注3)を開発した。
・任意の長さと配列の接着末端注4)を有するDNA断片の調製を可能にした。
・従来の制限酵素注5)法と比較して高効率でのDNA連結を可能にした。
・DNAライブラリーの構築やゲノム合成に応用することで、ゲノムの機能解明や創薬への貢献が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)o-ニトロベンジル:
ベンジル基のオルト位にニトロ基(-NO2)を有する。光を照射することで脱離させることが可能な置換基。
注2)PCR:
ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略称。DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素を利用し、一連の温度変化のサイクルを経て任意のDNA配列を指数関数的に増幅する手法。
注3)プライマー:
一本鎖からなる短いDNA。PCRではプライマーの3’末端から鎖伸長反応が行われる。
注4)接着末端:
二本鎖DNAの末端において、片方の鎖が突出して一本鎖状態となっている構造。
注5)制限酵素:
DNAの特定の認識配列の内部、あるいはその近くでDNAを特異的に切断する酵素。
注6)ポリメラーゼ:
鋳型と相補的な塩基配列を持つDNA(RNA)鎖を合成する酵素。

 

【論文情報】

雑誌名: RSC Chemical Biology
論文タイトル: Development of PCR Primer Enabling the Design of Flexible Sticky Ends for Efficient Concatenation of Long DNA Fragments
著者: 野村浩平, 恩田馨, 村瀬裕貴, 橋谷文貴, 小野幸輝, 寺井悟朗, 岡夏央, 浅井潔, 鈴木大輔, 高橋南帆, 平岡陽花, 稲垣雅仁, 木村康明, 清水義広, 阿部奈保子, 阿部洋* (*は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1039/d3cb00212h
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/cb/d3cb00212h

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 阿部 洋 教授
https://biochemistry.chem.nagoya-u.ac.jp/