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農学

2024.03.04

鳥類の母子免疫の仕組みを解明 ~ヒナの免疫機能の向上や機能性卵の作出への応用に期待~

名古屋大学大学院生命農学研究科の村井 篤嗣 教授、岡本 真由子 博士後期課程学生らの研究グループは、母ドリの血液から卵へIgY抗体が大量に輸送される仕組みを解明し、鳥類の母子免疫の分子基盤を明らかにしました。
哺乳類を始めとする多くの動物は、母親の免疫成分を次世代へと輸送し、新生子を病原菌などの感染から防ぐ母子免疫機構を備えています。鳥類の母子免疫では、母ドリの血液を流れるIgY抗体が、卵黄を介してヒナへと輸送されます。本研究では、鳥類の母子免疫の最初の過程である、母ドリの血液から卵黄へのIgY輸送を担う受容体として、FcRY受容体を見出しました。免疫組織染色注3)により、FcRYは卵黄を取り囲む毛細血管の内皮細胞に発現することを明らかにしました。さらに、卵黄に大量輸送される、あるいはほどんど輸送されないIgY変異体注4)を作出し、これら輸送能力の差はFcRYとの結合力の差によって生み出されることを明らかにしました。また、産卵ウズラでFcRYの機能を一時的に抑制すると、卵黄へのIgY輸送量が低下することを実証しました。本研究成果は、鳥類の免疫機能の向上や抗体を豊富に含む機能性卵の作出に貢献するものと期待されます。
本研究成果は、2024年2月29日22時(日本時間)付学術雑誌「Frontiers in Immunology」に掲載されました。

 

【ポイント】

・鳥類には、母ドリの血液から卵へIgY抗体注1)を大量に輸送し、生まれてくるヒナの免疫力を高める「母子免疫」が存在するが、その仕組みは未解明である。
・卵黄を取り囲む毛細血管に発現するFcRY受容体注2)が、この母ドリの血液から卵黄へのIgY輸送を担うことを世界で初めて明らかにした。
・本研究は、ニワトリやウズラの免疫機能の向上や抗体を豊富に含む機能性卵の作出に貢献すると期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)IgY (Immunoglobulin Y) 抗体:
鳥類が独自に持つ免疫グロブリン。非自己物質(抗原)が体内に侵入すると、それに対して特異的に結合する。抗原の毒性の無効化や、貪食細胞による食作用の促進など免疫機構で重要な役割を担う。
注2)FcRY受容体:
IgY抗体と結合する鳥類特有の受容体。哺乳類もこの受容体の遺伝子を保有しているが、抗体との結合能力はない。卵黄の中に取り込まれたIgY抗体を胚の血液に輸送する受容体として発見された。
注3)免疫組織染色:
組織切片上に特異抗体を添加して抗原抗体反応を生じさせ、目的のタンパク質を検出する手法。
注4)IgY変異体:
IgY抗体のアミノ酸配列に1アミノ酸変異を導入した抗体。

 

【論文情報】

雑誌名:Frontiers in Immunology
論文タイトル: FcRY is a Key Molecule Controlling Maternal Blood IgY Transfer to Yolks During Egg Development in Avian Species
著者:Mayuko Okamoto1, Ryo Sasaki1, Koki Ikeda1, Kasumi Doi1, Fumiya Tatsumi1, Kenzi Oshima1, Takaaki Kojima2, Shusei Mizushima3, Keisuke Ikegami4, Takashi Yoshimura1, Kyohei Furukawa1, Misato Kobayashi5, Fumihiko Horio6, Atsushi Murai1 (現所属:名古屋大学1, 名城大学2, 北海道大学3, 九州大学, 名古屋学芸大学, 名古屋女子大学)
DOI: 10.3389/fimmu.2024.1305587
URL: https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2024.1305587/full

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 村井 篤嗣 教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~anutr/index.html