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数物系科学

2024.03.04

銀河系に降り積もる水素ガス ~系外起源とする有力な証拠を発見、二十年来の状況打開~

宇宙における重元素量は、宇宙の進化を解明する上で必須の重要な値です。特に銀河系周辺における重元素の定量は、銀河系の起源解明における最も重要な課題のひとつです。名古屋大学大学院理学研究科の早川 貴敬 研究員と福井 康雄 名誉教授の研究チームは、銀河系に落下するガス雲(高速度雲・中速度雲)の重元素量分布の、全天にわたる精密な地図を世界で初めて作成しました。
この分野では、高輝度の遠方銀河・恒星を背景光源として吸収線スペクトルを使った測定が行われ、全天で数十箇所という極めて少ない情報を元にした議論が続けられてきました。本研究はこの状況を革新し、全天の重元素量を飛躍的広範囲で導いた点で、大きな意義があります。本研究の結果からは、「重元素量が太陽系周囲のガスとほぼ同じであり、超新星爆発などによって吹き上げられた銀河系噴水モデル的な物質の循環である」と説明されてきた中速度雲について、重元素量が太陽周囲の3分の1以下である成分が多く含まれていることが明らかになりました。さらに、重元素量の多い銀河系のガスと混合している証拠を示し、中速度雲の大部分が系外由来の始原的ガスである可能性を明らかにしました。本研究によって、銀河系に落下するガス雲の起源について、二十年来の膠着状況が打開され、100億年規模の銀河系の成長進化について新たな研究展開が期待されます。さらに本成果は、宇宙の銀河一般の進化研究にも波及し、関連する研究分野に広くインパクトを与えることが予想されます。
本研究成果は、2024年2月28日付天文学術雑誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (王立天文学会月報)」に掲載されました。

 

【ポイント】

・私たちの住む銀河系(天の川)の重力に引かれて落下するガス雲(高速度雲・中速度雲注1))の重元素注2)量分布の、全天にわたる詳細な地図を世界で初めて作成。
・「中速度雲の重元素量は太陽系周囲のガスと同程度」とされてきた定説を覆し、低重元素であることを示した。銀河系外に起源を持つ証拠を初めて検証。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)高速度雲・中速度雲:
太陽系から観測される中性水素ガスのほとんどは銀河系の回転運動に従っているが、大きく外れた視線速度を示すものがある。それらのうち、特に速度が大きい物(およそ毎秒100km以上)を高速度雲、やや速度が低い物(およそ毎秒30?100km)を中速度雲と呼ぶ。中速度雲は数千光年、高速度雲は数万光年の高さにあって落下しつつある天体と考えられている。銀河系の進化と密接な関係があると考えられているが、未解明な点も多い。
注2)重元素:
天文学では水素・ヘリウム以外の元素を重元素と呼ぶ。恒星内の核融合反応や超新星爆発によってのみ合成されるので、銀河系内を循環するガスには多く含まれ、系外から飛来するガスには少量しか含まれない。ただし、いずれの場合でも水素に比べればごく微量である(太陽表面で、水素に対する質量比が約1%)。
 

【論文情報】

雑誌名: Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (王立天文学会月報)
論文タイトル: Dust-to-neutral gas ratio of the intermediate- and high-velocity HI clouds derived based on the sub-mm dust emission for the whole sky
著者: 早川貴敬, 福井康雄 (名古屋大学大学院理学研究科)
DOI: 10.1093/mnras/stae302                                 

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 早川 貴敬 研究員、福井 康雄 名誉教授
https://yasuo-fukui.sakura.ne.jp/wp/