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生物学

2024.04.04

植物の生育状態を野外で早期診断できる装置を開発 ~ストレスに応答して生じるmiRNAを葉から検出~

名古屋大学生物機能開発利用研究センターの川勝 弥一 研究員、岡田 龍 研究員、同大学大学院工学研究科の原 光生 助教、同大学 未来社会創造研究所 ナノライフシステム研究部門の有馬 彰秀 特任講師、京都大学大学院理学研究科の野田口 理孝 教授 (兼:名古屋大学生物機能利用開発研究センター 特任教授) らの研究グループは、植物の生体分子であるmicro-RNA (miRNA)を簡易検出することで、生育状態を個別診断できるマイクロ流体デバイスを開発しました
植物は環境変化に対して様々な生体分子を発現することで、ストレスに適応しています。我々の研究グループは、植物がストレスへの初期応答で発現する生体分子を検出することで、生育状態の早期診断が可能であると考えました。本研究では、生体分子の一つであるmiRNAを簡易検出するマイクロ流体デバイスを開発し、それを用いてトマトの栄養状態を診断することに成功しました。開発したデバイスは、植物の搾汁液をデバイスに導入することで、標的となるmiRNAを検出することができます。本技術を用いて、土壌の栄養素であるリンが欠乏した際に発現するmiRNAであるmiR399の検出を行なった結果、リン欠乏条件で生育したトマトから強いシグナルが検出され、リン欠乏状態であると診断できました。加えて、リン欠乏と診断されたトマトをリンが十分な条件に切り替えることで、ストレス障害を回避することができました。開発したデバイスは小型で、必要な操作は溶液の導入だけであるため、野外の栽培現場でも利用できる可能性があります。本研究の成果は、植物の生体分子を検出することで、ストレス症状が生じる前の早期段階で生育状態を診断できる技術として期待されます。
この研究成果は、2024年4月3日付国際誌「Plant Phenomics」に掲載されました。

 

【ポイント】

・植物がストレス応答時に発現するmicro-RNA (miRNA)注1)を、葉の搾汁液から簡易に検出することができるマイクロ流体デバイス注2)を開発した。
・このデバイスによって、トマトのリン欠乏ストレスを早期診断し、ストレス症状を回避させることに成功した。
・野外の栽培現場でも簡便に生育状態を診断できる可能性を持つ技術として、農業の効率化を通して食料問題などの解決に貢献することが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)micro-RNA (miRNA):
遺伝子の発現を抑制する機能を持つ、18-25塩基程度の短い配列を持つ一本鎖RNA。
注2)マイクロ流体デバイス:
微細な流路を有するデバイス。少量の流体を通して移動させることができる。

 

【論文情報】

雑誌名:Plant Phenomics
論文タイトル:Microfluidic device for simple diagnosis of plant growth condition by detecting miRNAs from filtered plant extracts
(植物の搾汁液からmiRNAを検出し、植物の生育状態を簡易診断するマイクロ流体デバイスの開発)
著者:Yaichi Kawakatsu, Ryo Okada, Mitsuo Hara, Hiroki Tsutsui, Naoki Yanagisawa, Tetsuya Higashiyama, Akihide Arima, Yoshinobu Baba, Ken-ichi Kurotani, Michitaka Notaguchi* (*責任著者)
DOI: 10.34133/plantphenomics.0162
URL: https://spj.science.org/doi/10.34133/plantphenomics.0162

 

【研究代表者】

生物機能開発利用研究センター 野田口 理孝 特任教授
https://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~graft/