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医歯薬学

2024.04.02

細胞と共生できるセンダイウイルスを発見! ~ウイルスの生態解明やベクター開発への応用に期待~

名古屋大学 大学院創薬科学研究科 細胞薬効解析学分野の岩田 萌 博士後期課程学生、小坂田 文隆 准教授らの研究グループは、広島大学 大学院医系科学研究科 ウイルス学研究室の入江 崇 准教授らとの共同研究で、細胞と長期間共生できる変異センダイウイルスを見出しました
急性感染性ウイルスにも持続感染が生じるメカニズムは十分に解明されていません。今回研究グループは、まず遺伝的多様性の高いウイルスの少量感染により、急性感染性のセンダイウイルスが持続感染した細胞を樹立できることを見出しました。この細胞から分離された新規変異センダイウイルスは、わずか4-5か所の変異のみで持続感染能を獲得し、生体温度で増殖が可能であるなど既報のウイルスとは異なる特徴を有していました。これらの結果は、センダイウイルスが急性感染した後、長期間複製を繰り返す中で生じた偶発的な変異により持続感染性を獲得し得ることを示唆しています。さらに、センダイウイルスは細胞に遺伝子を運び込むベクターとして様々な用途に利用できるため、本研究成果は長期間安定に遺伝子を発現できるなどの新たな特性を有したウイルスベクターの開発を通して、基礎研究および医療応用への貢献が期待されます。本研究成果は、2024年4月2日15時(日本時間)付雑誌「Frontiers in Virology」2024年4月号(第4巻)に掲載されます。

 

【ポイント】

・急性感染性ウイルスであるセンダイウイルス注1)の遺伝的多様性注2)を高め、持続感染注3)能を獲得したウイルスを得ることに成功した。
・センダイウイルスは、ゲノム上のわずか4-5か所の変異により持続感染性を獲得し、従来報告されていたウイルスと異なり、生体温度での増殖性を維持していた。
・本研究結果は、急性感染性ウイルスの生態の解明や、広い用途で遺伝子導入に用いられるセンダイウイルスのベクターとしての機能改良に貢献する可能性がある。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)センダイウイルス:
モノネガウイルス目レスピロウイルス属パラミクソウイルス科に属するげっ歯類の急性呼吸器病ウイルス。
注2)遺伝的多様性:
ウイルス集団内に存在する、個々のウイルスが保持する変異の差異の多様性を示す。遺伝的多様性が高いウイルス集団ほど、異なる変異を持つウイルスが多数混在している。
注3)持続感染:
広義では、ウイルスが細胞や個体を死滅させたり、ウイルスが排除されたりすることなく、ウイルス感染が持続し続ける状態を指す。本研究では感染性ウイルスを産生しつつ細胞への感染状態が維持された状態を、持続感染と呼んでいる。

 

【論文情報】

雑誌名: Frontiers in Virology
論文タイトル: Evolutionary Engineering and Characterization of Sendai Virus Mutants Capable of Persistent Infection and Autonomous Production
著者: Moe Iwata(名古屋大学), Ryoko Kawabata, Nao Morimoto, Ryosuke F. Takeuchi, Takemasa Sakaguchi, Takashi Irie(広島大学), Fumitaka Osakada(名古屋大学)       
DOI: 10.3389/fviro.2024.1363092                               

 

【研究代表者】

大学院創薬科学研究科 小坂田 文隆 准教授
https://www.ps.nagoya-u.ac.jp/lab_pages/Pharmacology/