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工学

2024.04.26

簡便な計測に基づく新しいトモグラフィ手法を開発 ~核融合発電における装置壁の熱負荷軽減などに貢献~

名古屋大学未来材料・システム研究所の田中 宏彦 准教授、大学院工学研究科の大野 哲靖 教授らの研究グループは、東海大学の夏目 祥揮 特任講師および東京大学の梶田 信 教授との共同研究で、トモグラフィ解析と統計的手法を組み合わせた新しいプラズマ計測手法を開発し、核融合非接触ダイバータプラズマの4次元的な時空間挙動を明らかにしました
未来のエネルギー源として期待される磁場閉じ込め核融合発電炉において、装置壁への熱負荷の低減は極めて重要な課題の一つです。効果的な解決策として「壁の前面でプラズマを消す運転(非接触ダイバータ)」が期待されていますが、そのとき、磁力線を横切る間欠的なプラズマ輸送が増大する現象が報告されています。
本研究は名古屋大学のもつ直線プラズマ装置を用いて、非接触ダイバータ環境を模擬し、高速カメラによる広域的な発光信号計測を行いました。同時計測された電気信号を使って、プラズマ輸送発生前後の発光挙動を取得し、短時間の剛体回転注3)を仮定した新しいトモグラフィ解析を適用しました。その結果、プラズマ放出が起こる前にはひずんだ回転構造が前駆体として現れ、その後、径方向に引き?がされて円弧形状を形成しつつ輸送される様子が確認されました。本研究結果は、現象の物理理解を通じて、核融合装置壁の熱負荷のさらなる低減につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年4月23日付国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

 

【ポイント】

・トモグラフィ解析注1)と統計的手法を組み合わせた新しい計測解析手法を開発した。
・核融合非接触ダイバータプラズマ注2)中で発生する磁場を横切るプラズマ輸送の時間(1次元)と空間(3次元)にわたる4次元的な時空間挙動を抽出した。
・未来のエネルギー源の一つとされる核融合装置壁の熱負荷低減につながる。
・開発された手法は宇宙機スラスタなど他分野にも応用可能である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) トモグラフィ解析:
物体を複数の角度から計測した線積分値から、局所的な値の空間分布を求める手法。一例として、医療用CT(Computed Tomography)では、エックス線を用いて物体の投影像を多数取得し、断面画像を再構成する。
注2) 核融合非接触ダイバータプラズマ:
装置壁前面でプラズマを消す『非接触ダイバータ』運転時に生成されるプラズマ。同プラズマ(非接触プラズマ)中では、イオンと電子が空間中で再結合反応を起こし、中性粒子へと変化する。光、および粒子が磁力線の束縛を逃れることで熱流が分散され、装置壁面上の局所熱負荷が低減される。
注3) 剛体回転:
角速度が半径に依存しない一定の回転。物体について、各部分の相対的な位置関係(≒形状)が変わらない回転のこと。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Four-dimensional conditional averaging tomography of rotating plasma ejection from cylindrical detached plasma
著者:田中宏彦1, 梶田信2, 夏目祥揮3, 大野哲靖1
1名古屋大学, 2東京大学, 3東海大学
DOI:10.1038/s41598-024-59182-5
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-59182-5

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 田中 宏彦 准教授
http://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/plaene/member/tanaka/