TOP   >   生物学   >   記事詳細

生物学

2024.04.26

植物の染色体が維持されるための仕組みを解明 ~自在な半数体誘導を介した育種法開発の糸口~

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の武内 秀憲 特任助教、永原 史織 博士研究員(現:京都大学大学院理学研究科 助教)は、東京大学大学院理学系研究科 東山 哲也 教授(名古屋大学 客員教授)、オーストリア グレゴール・メンデル研究所のFrédéric Berger (フレデリック ベルジェ) シニア・グループリーダーとの共同研究で、染色体維持の鍵分子であるセントロメア特異的ヒストン(CENH3)の認識・運搬の分子基盤を植物で明らかにしました。さらに、CENH3の運搬を担うヒストンシャペロンタンパク質(NASP)は、植物の受精卵・初期胚において特に重要な役割を有しており、機能が損なわれると染色体の脱落が起こることを見出しました
被子植物では、受精卵・初期胚において片親由来の染色体が維持されず細胞から脱落することで半数体個体が生じる現象が知られており、その性質を用いた育種(品種改良)法がトウモロコシなどの限られた植物種で利用されています。本研究により、受精卵・初期胚における染色体維持の仕組みの理解が進んだことで、様々な被子植物で自在に半数体を誘導できるような技術への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年4月26日午前9時01分(日本時間)付日本植物生理学会の国際誌「Plant & Cell Physiology」に掲載されます。

 

【ポイント】

・植物の受精時に雄と雌の染色体が維持されるための重要な仕組みを発見した。
・染色体維持の鍵分子セントロメア注1)特異的ヒストン(CENH3)を運搬するヒストンシャペロン注2)(NASP)を見出し、種特異的なアミノ酸配列の組み合わせが運搬に重要であることを明らかにした。
・これらタンパク質の組み合わせの不和合は受精卵・初期胚での染色体脱落を引き起こすため、人為制御による自在な半数体誘導技術への応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)セントロメア(英:centromere):
真核生物の細胞分裂の際に観察される染色体において、紡錘体微小管が接続する部位。また、そのゲノムDNA領域。多くの真核生物ではそれぞれの染色体の中央に位置することから名付けられたが、例外もある。シロイヌナズナは典型的なセントロメアの配置をもつ。
注2)ヒストンシャペロン(英:histone chaperone):
ヒストン分子に結合し、その運搬や再構成を介助するタンパク質。

 

【論文情報】

雑誌名:Plant & Cell Physiology
論文タイトル:The Chaperone NASP Contributes to De Novo Deposition of the Centromeric Histone Variant CENH3 in Arabidopsis Early Embryogenesis
著者:武内 秀憲*、永原 史織、東山 哲也*、Frédéric Berger (*: 名古屋大学教員)
DOI: 10.1093/pcp/pcae030
URL: https://doi.org/10.1093/pcp/pcae030

 

【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所/高等研究院 武内 秀憲 特任助教
https://researchmap.jp/7000027030/
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/members/group/y-mizuta.php