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化学

2024.04.22

U字型キラルルイス酸触媒の基質包接効果によるマルチ選択的反応制御 ~有機反応をマルチ制御する人工酵素触媒開発への大きな一歩~

神戸薬科大学 生命有機化学研究室の波多野 学 教授、名古屋大学 大学院工学研究科 石原 一彰 教授らは、U字型キラル*1ホウ素ルイス(Lewis)酸*2触媒によるDiels-Alder(ディールス・アルダー)反応*3のマルチ選択性制御に成功しました。最大の特徴は、キラルビナフトール*4から系中で簡便に調製できるキラルホウ素ルイス酸触媒が、触媒活性点を底にした深いキラルU字型構造(キャビティー*5)をもつことです。

 

このU字型構造にジエン*6とアルキン*7、またはジエンとアルケン*8の基質を同時に包接して活性化することにより、精密な遷移状態へと円滑に導きます。驚くべきことに、たとえ複数の基質を同時に混ぜて用いた場合でも、各触媒に最も適合した形やサイズの基質が優先的に認識されて取り込まれることを発見しました。本合成技術により、位置および立体化学が精密制御された付加価値の高い光学活性ノルボルナジエンおよびノルボルネン骨格をもつキラル医薬品探索研究の推進が期待されるほか、in vitro で有機反応をマルチ制御する人工酵素触媒開発への大きな一歩になります。

 

本研究成果は、国際化学雑誌「Organic Letters 」への掲載に先立ち、2024年4月18日にオンライン版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 キラル:右手と左手のように、3次元の物体が、その鏡像と重ね合わすことができない立体的関係。
*2 ルイス(Lewis)酸:少なくとも一つの電子対を受け入れられる空の電子軌道をもつ原子・分子・イオン。電子対受容体。逆はルイス塩基。
*3 Diels-Alder(ディールス・アルダー)反応:共役ジエンにアルケンが付加して6員環構造を生じる有機化学反応。[4+2]環化付加反応とも言われる。
*4 ビナフトール:軸不斉をもつ有機化合物で、(R )-(+)-1,1'-ビ-2-ナフトール、(S )-(-)-1,1'-ビ-2-ナフトールのエナンチオマーが存在する。
*5 キャビティー:触媒において基質を包接するための空間、くぼみ。
*6 ジエン:2つの炭素-炭素二重結合をもつ化合物。
*7 アルキン:炭素-炭素三重結合をもつ化合物。
*8 アルケン:炭素-炭素二重結合をもつ化合物。

 

【論文情報】

雑誌名: Organic Letters
論文名: Effect of the U-Shaped Cavity of Conformationally Flexible Chiral Lewis-Acidic Boron-Based Catalysts in Multiselective Diels-Alder Reactions
著者:阪本 竜浩(当時・名大院生)、藤 浩平(当時・名大院生)、松井 開(名大院生)、波多野 学*(神戸薬大教授、当時・名大准教授)、石原 一彰*(名大教授)
DOI: 10.1021/acs.orglett.4c01060
URL: https://doi.org/10.1021/acs.orglett.4c01060

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 石原 一彰 教授
https://www.ishihara-lab.net/