北海道大学大学院環境科学院修士課程の渡利晃久(研究当時)、北海道大学低温科学研究所の飯塚芳徳准教授、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所の増永浩彦准教授、長崎大学大学院総合生産科学研究科(水産・環境科学総合研究科)の河本和明教授らの研究グループは、グリーンランドのアイスコア*1に保存されている硫酸エアロゾル*2と衛星観測による周辺海域の雲量や雲粒の数密度に関係があることを発見し、人為硫黄酸化物の排出最盛期である1970年代は硫酸エアロゾルが雲粒を多く作ることにより雲量が増加していたことを解明しました。
硫酸エアロゾルは、地球の放射収支を考える上で重要な要素です。とくに極域では硫酸エアロゾルは凝結核*3となり雲を形成し、雲が地球表層の大気を冷却する役割があります。過去の硫酸エアロゾルの量はアイスコアから、雲の量は衛星観測から調べることができます。今回、研究グループは、グリーンランドのアイスコアに保存されている硫酸エアロゾルの量と、周辺海域の雲量との間に有意な正の相関があることを明らかにしました。しかしながら、衛星観測は1980年代から本格的に始まっており、1970年代よりも古い時代の雲量を直接調べることはできません。そこで本研究では、1980年代から2010年代のエアロゾル量と雲量の関係を用いて、1970年代の雲量を復元しました。その結果、人為硫黄酸化物の排出最盛期である1970年代は硫酸エアロゾルが雲粒を多く作り、雲量の増加が地球表面を寒冷化させていたことが示唆されました。過去のエアロゾルと雲の関係解明は地球温暖化のメカニズムの理解向上につながり、将来予測の精度を高めることが期待されます。
なお、本研究成果は、2024年4月21日(日)公開のScientific Reports誌に掲載されました。
・グリーンランドのアイスコアから過去の硫酸エアロゾル量と周辺海域の雲量の関係解明。
・人為的な硫黄排出最盛期である1970年代は硫酸エアロゾル量が多く、雲量も多かったことを示唆。
・雲量の増加は地球表層を冷却するため、地球温暖化のメカニズムの理解向上に期待。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
*1 アイスコア … 極地氷床などで鉛直方向にくり貫かれる円柱状の氷試料のこと。
*2 エアロゾル … 気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体。
*3 雲凝結核 … 雲が生成されるとき、気体の水蒸気から液体の水に凝結するときに核(凝縮核)として働く微粒子のこと。
論文名 Long-term relationships between summer clouds and aerosols over mid-high latitudes of the Northern Hemisphere(北半球中高緯度における夏の雲とエアロゾルの長期的関係)
著者名 渡利晃久1、2、飯塚芳徳2、藤田耕史3、増永浩彦4、河本和明5(1北海道大学大学院環境科学院、2北海道大学低温科学研究所、3名古屋大学大学院環境学研究科、4名古屋大学宇宙地球環境研究所、5長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)
雑誌名 Scientific Reports
DOI 10.1038/s41598-024-59817-7
公表日 2024年4月21日(日)(オンライン公開)
大学院環境学研究科 藤田 耕史 教授
http://www.cryoscience.net/
宇宙地球環境研究所 増永 浩彦 准教授
https://precip.isee.nagoya-u.ac.jp/index-j.html