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生物学

2024.05.16

L1レトロトランスポゾンの転移によってエピゲノムが改変されることを発見 ~マウス亜種間のゲノムとエピゲノムの比較解析から~

名古屋大学大学院生命農学研究科のBeverly Ann Boyboy(べバリ・アン・ボイボイ)博士後期課程学生、一柳 健司 教授の研究グループは、由来亜種が異なるマウス系統の遺伝子発現(トランスクリプトーム)、ヒストンアセチル化状態(エピゲノム)、およびレトロトランスポゾン挿入の比較解析を行い、レトロトランスポゾンL1の転移によってエピゲノム状態が変化し、遺伝子発現パターンも変化してきたことを発見しました。
マウスやヒトなど、哺乳類のゲノムは遺伝子密度やレトロトランスポゾン密度に著しい濃淡があります。この研究成果は、遺伝子密度の高いゲノム領域でL1挿入が負の選択圧を受けるメカニズムの一端を明らかにしたことで、哺乳類ゲノムが進化する過程を理解するための重要な知見となると考えられます
本研究成果は、2024年5月10日付、国際学術雑誌「Mobile DNA」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・異なる亜種(生息地域が異なり、表現型も異なる集団)由来のマウス系統(B6とMSM)について、ゲノム、エピゲノム、遺伝子発現を統合的に比較した。
・ヒストンアセチル化注1)が異なる領域では遺伝子発現も変化していた。
・レトロトランスポゾン注2)の一種であるL1が転移すると、周辺領域が低アセチル化になることが分かった。
・進化の過程でゲノムの構造と機能が変化していく際に、レトロトランスポゾンの転移が重要な役割を担ってきたと考えられる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ヒストンアセチル化:
真核生物の核では、DNAはヒストン・タンパク質(H2A、H2B、H3、H4の4種)と結合してヌクレオソームという構造を作っている。ヌクレオソームにおけるヒストンはアセチル化(アセチル基 [-COCH3]が付加されること)を受けることがあり、アセチル化を受けるとヌクレオソームが緩み、転写が活発化する。
注2)レトロトランスポゾン:
自身の配列をRNAに一度コピーしてからDNAを作り、そのDNAをゲノムの別の場所に挿入するDNA配列の総称。ヒトやマウスのゲノムの中に数百万コピーあり、ゲノムの約半分を占める。LINE(L1を含む)、SINE、内在性レトロウイルスが知られている。

 

【論文情報】

雑誌名:Mobile DNA
論文タイトル:Insertion of short L1 sequences generates inter-strain histone acetylation differences in the mouse.
著者:Beverly Ann G. Boyboy、一柳健司
所属:名古屋大学大学院生命農学研究科ゲノム・エピゲノムダイナミクス研究室
DOI: 10.1186/s13100-024-00321-0
URL: https://mobilednajournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13100-024-00321-0

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 一柳 健司 教授
大学院生命農学研究科 Beverly Ann Boyboy(べバリ・アン・ボイボイ) 博士後期課程学生
http://nuagr2.agr.nagoya-u.ac.jp/~ged/index.html