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工学

2024.05.10

遺伝子組換え困難な細菌を遺伝子組換えしやすく改変 ~バイオものづくりへの応用に期待~

JST 戦略的創造研究推進事業において、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部の石川 聖人准教授と名古屋大学大学院工学研究科の堀 克敏教授は、遺伝子組換えが困難な細菌Acinetobacter 属Tol 5株注1)を、遺伝子組換えが容易な細菌へと改変することに成功しました。
微生物を用いた物質生産、いわゆるバイオものづくり注2)は、従来の化石資源を原料としたさまざまな製造プロセスを置き換える「持続可能なものづくり」として注目を集めています。効率的な物質生産には、バイオものづくりに適した微生物の作出が不可欠ですが、その基礎となる微生物のことを基盤微生物といいます。自然界に存在する有用な細菌の多くは、生産機能向上や機能改変のための遺伝子組換えが困難であるため、基盤微生物としては利用しづらい課題がありました。本研究グループは、バイオものづくりに有望な細菌として、多様な炭化水素を栄養素として利用でき、生産物質回収が容易なAcinetobacter 属細菌Tol 5に注目して研究を進めていますが、これも他の細菌と同様に遺伝子組換えが困難でした。
本研究では、Tol 5株で遺伝子組換えを困難にしている要因が、外来DNAに対する防御機構であることを解明しました。さらに、Tol 5株の2つの制限酵素注3)の遺伝子を欠損させると、遺伝子組換え効率が劇的に向上することを明らかにしました。つまり、2つの制限酵素遺伝子を欠損したTol 5株は、遺伝子導入・組換えDNA構築注4)・ゲノム編集技術の1つである塩基編集注5)が適用可能な遺伝子組換えしやすい細菌となりました。
遺伝子組換えしやすくなったTol 5株はバイオものづくりの基盤微生物としての活用が期待されます。加えて、制限酵素の遺伝子を欠損させると遺伝子組換えの効率が上がるという本研究における知見は、遺伝子組換え困難な微生物を遺伝子組換えしやすくするアプローチとして有効であり、未活用微生物への適用により、バイオものづくりの基盤微生物に多様性を与えることに役立つことが期待されます。
本研究成果は、2024年5月9日(米国東部時間)発行のアメリカ微生物学会科学誌「Applied Environmental Microbiology 」に掲載されました。

 

【ポイント】

 

➢ 微生物を利用して有用な物質を得るバイオものづくりに有望な細菌“Acinetobacter 属Tol 5株”の遺伝子組換えが困難な理由が、外来DNAに対する防御機構であることを解明した。
➢ 2つの制限酵素遺伝子を欠損させたTol 5株を作出し、エレクトロポレーション法による遺伝子導入を行ったところ、その効率が約5.7万倍向上。遺伝子組換えしやすい細菌への改変に成功した。
➢ 得られたTol 5変異株は、バイオものづくりにおける基盤微生物としての活用が期待されると共に、Tol 5株で得られた知見を他の遺伝子組換え困難な細菌へ適用することで基盤微生物の多様化への貢献が期待される。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)Acinetobacter 属細菌Tol 5
堀教授がトルエン除去装置から分離した細菌。有機溶媒に高い耐性を持ち、多様な炭化水素を栄養素とすることができることに加え、高付着性・凝集性というバイオプロセスに有利な特徴を併せ持つ。
注2)バイオものづくり
微生物や動植物等の細胞を利用して、バイオマス資源や大気中の二酸化炭素を原料に、化学品や燃料、食品などを生産する取り組み。
注3)制限酵素
DNAを特定の部分で切断する酵素。遺伝子工学では試験管内でDNAを切断する際に利用されるが、細菌細胞内では主にバクテリオファージ(細菌に感染するウイルスのこと)の感染を免れるために機能する。
注4)組換えDNA構築
異なる生物に由来するDNAや、人工的に合成したDNAを組み合わせて新しい遺伝子配列を持ったDNAを作る技術。プラスミドのような環状の組換えDNAは大腸菌を用いて構築し、増幅させることが一般的である。
注5)塩基編集
ゲノム編集技術の1つであり、DNAの特定の1文字(塩基)を直接的に変更する。一般的なゲノム編集とは異なり、DNAの二重鎖切断を行わないことを特徴とする。

 

【論文情報】

“英語タイトルThe elimination of two restriction enzyme genes allows for electroporation-based transformation and CRISPR-Cas9-based base-editing in the non-competent Gram-negative bacterium Acinetobacter sp. Tol 5.”
(日本語タイトル 2つの制限酵素遺伝子を除去することで、非コンピテントなグラム陰性細菌Acinetobacter 属Tol.5のエレクトロポレーションによる形質転換とCRISPR-Cas9に基づく塩基編集が可能となる)

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 堀 克敏 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/life3/index.html