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数物系科学

2024.05.23

火山や地熱地帯でガス放出量を測定する装置を開発 ~マグマ活動の評価・予測および大気環境への影響評価に貢献~

名古屋大学大学院環境学研究科の宮木 裕崇 博士前期課程学生、 角皆 潤 教授、伊藤 昌稚 特任助教、中川 書子 准教授らと、産業技術総合研究所の風早 竜之介 主任研究員の共同研究グループは、火山ガスの放出量を測定する「鉛直センサーアレイ」を開発しました。また国内の複数の火山・地熱地帯において火山ガスの放出量を実測し、登別温泉(北海道)の大湯沼から自然放出される硫化水素は1日2.5トン、水素ガスは21キログラムに達することを明らかにしました
火山ガス放出量は、地下に存在するマグマや火山性流体の現状を把握し、その活動の将来予測を実現する上で不可欠なデータとなっています。これまでは、火山周辺の大気中における二酸化硫黄(SO2)の分布をリモートセンシング注1)で測定することで求められて来ました。しかしSO2が豊富に含まれている高温の火山ガスに限られていました。水蒸気噴火を繰り返す火山や地熱地帯などは、400度未満の比較的低温の火山ガスが中心となるため、火山ガスの放出量を把握することが困難でした。そこで本研究は、このような火山ガス中で主成分となっている硫化水素(H2S)に着目し、大気中におけるH2Sの鉛直分布を測定する鉛直センサーアレイを開発しました。
本研究成果は、2024年5月23日午前7時(日本時間)付科学雑誌「Journal of Volcanology and Geothermal Research」オンライン版に掲載されます。
                             

【ポイント】

・火山や地熱地帯から大気中に放出される火山ガスの放出量を測定するための装置「鉛直センサーアレイ」を新しく開発した。
・鉛直センサーアレイは、「硫化水素」を高速検出するセンサーを縦方向に配列したもので、これを噴気孔近傍の地上に設置して観測することで、大気中の硫化水素濃度の分布をリアルタイムで把握することができる。
・同時に観測する風向・風速の時空間変化も利用して、火山ガス放出量を算出する。
・鉛直センサーアレイを用いて火山ガス放出量を実測した。登別温泉の大湯沼(北海道)から自然放出される硫化水素は1日2.5トン、二酸化炭素は14トン、水素ガスは21キログラムに達することが明らかとなった。
・将来的にはドローンに搭載して観測することで、あらゆる火山・地熱地帯において火山ガス放出量測定が実現できるようになる。これには従来測定が困難であった水蒸気噴火を繰り返す火山も含まれる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)リモートセンシング:
遠く離れたところ(リモート)から、対象物に触れずに対象物の形状や性質等を測定する(センシング)技術のことであり、大気中の二酸化硫黄(SO2)の場合は、SO2が特定波長の紫外光を強く吸収する性質を利用することで、その大気中存在量をリモートから分光学的に定量化することが出来る。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Volcanology and Geothermal Research (Elsevier)
論文タイトル:Estimating emission flux of H2S from fumarolic fields using vertical sensor array system (噴気地帯における鉛直センサーアレイシステムを用いた硫化水素放出量の定量)
著者:Yutaka Miyagi1, Urumu Tsunogai1, Kohei Watanabe1, Masanori Ito1, Fumiko Nakagawa1 and Ryunosuke Kazahaya2 (宮木 裕崇1, 角皆 潤1, 渡部 紘平1, 伊藤 昌稚1, 中川 書子1, 風早 竜之介2) (1. 名古屋大学, 2産業技術総合研究所)
DOI: 10.1016/j.jvolgeores.2024.108090

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 角皆 潤 教授
大学院環境学研究科 宮木 裕崇 博士前期課程学生
https://biogeochem.has.env.nagoya-u.ac.jp/index.html

 

【関連情報】

インタビュー記事「火山ガスを”縦に”測る」(名大研究フロントライン)