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生物学

2024.05.22

見えた!植物がたくさん種子を作るしくみ ~花の中身を観察する新手法で、オスとメスが結ばれるしくみ究明~

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の水多 陽子  助教、大学院理学研究科の榊原 大吾 博士前期課程学生、永原 史織 研究員、金城 行真 博士前期課程学生、長江 拓也 博士後期課程学生、栗原 大輔 特任准教授、東京大学大学院理学系研究科の東山 哲也 教授らの研究グループは、花の中を生きたまま観察できる特殊な顕微鏡法を開発しました。開発した方法で花の中を観察することで、花粉管注1)(オス)が胚珠注2)(メス)に1対1で引き寄せられ、次々に受精する様子をはっきりと捉えることができました。
その後の解析から、花粉管(オス)は胚珠(メス)に1対1で引き寄せられること、胚珠を包む母体組織や胚珠内の細胞から出る「花粉管誘引シグナル」が花粉管をめしべの組織表面に沿って伸長するように促す「花粉管くっつきシグナル」としても働くことで、1対1の引き寄せが時空間的に精密に制御されていることが分かりました。一方で、すでに花粉管を引き寄せた胚珠からは、これ以上オスが引き寄せられないよう速やかに「反発シグナル」が出ることも明らかとなりました。この反発シグナルにより、受精できなかった花粉管は他の胚珠に向かうことができるため、オスもメスも無駄にならず、より多く種子を作ることができると考えられます。
本研究によって明らかになった植物が効率的に種子をより多く作るしくみは、種子増産など農業育種分野においても重要と考えられます。
本研究成果は、2024年5月21日18時(日本時間)付ヨーロッパ科学雑誌「EMBO reports」に掲載されます。

は研究当時

 

【ポイント】

・特殊な顕微鏡法で花の中を生きたまま見ることに成功
・花の中ではメスが1つだけオスを引き寄せる1対1誘引が精密に制御されていた
・1対1誘引の制御のしくみは、種子を効率的に多く作るため、農業育種にも重要

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)花粉管:
植物が受粉した際に、精細胞をめしべの奥深くに存在する種子の元になる組織へと届けるための長い管状の細胞。花粉管の先端内部には2個の精細胞が含まれており、活発に先端成長することで胚珠へと到達する。胚珠に到達した後は、花粉管の先端が破裂することで内部の精細胞が胚珠内に放出され、受精できるようになる。
注2)胚珠:
めしべの奥深くに位置する種子の元となる組織。胚珠の中にある卵細胞と花粉管によって運ばれてきた精細胞が受精することによって、受精卵が作られる。その後、受精卵が分裂を繰り返すことで胚発生が進行する。

 

【論文情報】

雑誌名:EMBO reports
論文タイトル:Deep imaging reveals dynamics and signaling in one-to-one pollen tube guidance
著者:Yoko Mizuta, Daigo Sakakibara, Shiori Nagahara, Ikuma Kaneshiro, Takuya T. Nagae, Daisuke Kurihara, Tetsuya Higashiyama(著者全員名古屋大学関係者)
DOI:10.1038/s44319-024-00151-4

 

【WPI-ITbMについて】http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/高等研究院 水多 陽子 助教
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/members/group/y-mizuta.php

 

【関連情報】

インタビュー記事「速いもん勝ちじゃない、成功するオスの意外な戦略を可視化」(名大研究フロントライン)