東京大学医科学研究所附属遺伝子細胞治療センター分子遺伝医学分野の岡田尚巳教授、恒川雄二助教、和田美加子特任研究員、名古屋大学未来社会創造機構 量子化学イノベーション研究所の有馬彰秀特任講師、馬場嘉信特任教授、大阪大学産業科学研究所の筒井真楠准教授、川合知二招へい教授らによる共同研究グループは、固体ナノポア法を用いてAAVベクター粒子の形状を詳細に解析する技術を開発しました。
固体ナノポア法は、半導体技術で作製した微小な穴(ナノポア)を、粒子が通過するときに発生するイオン電流を計測することで、通過する粒子を非破壊で検出・識別する方法です。今回の論文では、ナノ細孔の材料・構造設計と計測条件を最適化し、透過電子顕微鏡に匹敵するレベルの感度で水中にある微小物体の測長を可能にするナノポアセンサを開発しました。これにより、AAVベクターは封入されるDNAの長さによりその粒子径を僅かに変えることが世界で初めてわかりました。この実験結果を応用することにより、AAVベクターなどの遺伝子治療用製品の品質管理に応用されることが期待されます。
本研究成果は2024年6月5日、米国科学誌「ACS Nano」オンライン版で公開されました。
◆成果:ナノポア技術を用いてアデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)に含まれる完全体、中間体、中空粒子を簡易かつ詳細に判別する技術を開発した。
◆新規性:これまでのAAVベクター計測法と比べ、圧倒的に少量のサンプルを非破壊で高性能に解析できるようになった。
◆社会的意義、将来の展望:少量のサンプルから簡易に解析ができるため、品質管理にかかる費用が抑制され、遺伝子治療用製品の価格を抑える効果が期待される。さらに、技術が進歩すれば、これまではわからなかったAAVベクターの詳細な特徴を解析できるようになり、高品質な遺伝子治療用製品の開発につながることが期待される。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
〈雑誌〉 ACS Nano
〈題名〉 Identifying viral vector characteristics by nanopore sensing
〈著者〉 Makusu Tsutsui✝, Mikako Wada✝, Akihide Arima✝, Yuji Tsunekawa✝,*, Takako Sasaki, Kenji Sakamoto, Kazumichi Yokota, Yoshinobu Baba, Tomoji Kawai, and Takashi Okada* (✝equally first authors, *corresponding authors)
〈DOI〉 10.1021/acsnano.4c01888
〈URL〉 https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.4c01888
未来社会創造機構 有馬 彰秀 特任講師
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/bioanal1/