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農学

2024.06.03

植物の免疫力を向上させる2種の物質を特定 ~"病気に強い"農作物をつくる農業資材の開発に貢献~

病原菌の攻撃をうけた植物は、菌が持つ特徴的な物質を異物として認識することで、免疫反応を活性化します。本研究では、世界の4大作物の1つであるジャガイモの最重要病原菌である「ジャガイモ疫病菌」の細胞膜に含まれる成分から、植物が病原菌由来の物質として認識している2種類の物質Pi-CerとPi-DAGを特定しました。またPi-CerやPi-DAGを植物に前もって処理すると、植物の病原菌への抵抗力が向上することが示されました。これらの物質は、植物が本来持っているの免疫力を活性化することで病害から作物を守る「バイオスティミュラント資材」注1)としての活用が期待されます。

 

名古屋大学大学院生命農学研究科の竹本 大吾 教授、小鹿 一 名誉教授、川北 一人 名誉教授、京都大学大学院農学研究科 加藤 大明 特定研究員らの研究グループは、ジャガイモ疫病菌の細胞膜成分から植物の免疫を活性化する2種類の物質Pi-Cer DおよびPi-DAGを精製しました。さらに、それらの物質に含まれる微生物特有の構造9-methyl-4,8-sphingadienine(9Me-Spd)および5,8,11,14-tetraene-type fatty acid(5,8,11,14-TEFA)を植物細胞が異物として認識し、病原菌の感染を抑制するための多数の抵抗性関連遺伝子を活性化することを明らかとしました。この2種類の物質を植物に処理することで、病気の発生が抑制されることも示されました。
本研究成果は、2024年6月3日付で米国の国際学術誌「Plant Physiology」誌にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・植物は、病原菌の持つ物質を異物として認識し、病気に対する抵抗性を活性化する。
・ジャガイモの最も重要な病原菌であるジャガイモ疫病菌から、植物の免疫を誘導する2種類の物質を精製し、その構造を決定した。
・免疫誘導物質を前もって植物に処理すると病害が抑制された。
・免疫誘導物質は、イネやナズナなどの植物でも免疫応答を活性化した。
・これら物質のバイオスティミュラント(免疫の活性化剤)としての活用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)バイオスティミュラント:
生物(Bio)を刺激する(Stimulate)資材のこと。植物を刺激して本来持っている有益な能力を引き出すことを目的として用いる。

 

【論文情報】

雑誌名: Plant Physiology
論文タイトル:Two structurally different oomycete lipophilic microbe-associated molecular patterns induce distinctive plant immune responses.
著者: Monjil MS, Kato H, Ota S, Matsuda K, Suzuki N, Tenhiro S, Tatsumi A, Pring S, Miura A, Camagna M, Suzuki T, Tanaka T, Terauchi T, Sato I, Chiba S, Kawakita K, Ojika M and Takemoto D
DOI:10.1093/plphys/kiae255

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 竹本 大吾 教授
https://nagoyaplantpathol.wixsite.com/nagoya-plant-pathol