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化学

2024.07.18

3種類以上の化合物を一挙に連結させる新反応 ~伝統的な反応剤に新しい価値、新薬候補品の探索加速へ~

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・大学院工学研究科の大井 貴史 教授、大松 亨介 特任准教授(現 慶應義塾大学理工学部 教授)、鈴木 隆平 博士、安藤 大雅 博士後期課程学生、Deufel Fritz(ドゥフェル フリッツ)研究留学生らの研究グループは、合成化学で70年以上に渡り汎用されてきたリンイリド注1)と呼ばれる反応剤を用いて、3種類以上の化合物を1つのフラスコ内で一挙に連結させる新しい化学反応を実現しました。
本研究の鍵は、ラジカルイオン注2)と呼ばれる化学種の性質を活かして、リンイリドの最も反応しやすい結合よりも先に、本来は反応しない炭素-水素結合を炭素-炭素結合に置き換えることに成功した点です。さらに、本来反応しやすい結合も活かすことで3つの分子を連結させる環化反応や、4つの分子の連結反応を実現しました。今回開発した反応を利用することで、多様なケミカルライブラリーを迅速に提供できることから、新薬候補化合物の探索の飛躍的な効率化が期待されます。
本研究成果は、2024年7月15日付英国科学雑誌「Nature Synthesis」電子版に掲載されました。

 

【ポイント】

・3種類以上の化合物を一挙に狙ったとおり連結させる新反応を開発。
・合成化学で70年以上研究・汎用されてきた分子の新しい価値を創出。
・青色発光ダイオードと分子触媒を組み合わせた技術を活用。
・1工程で構造多様性・極性官能基に富む化合物を合成可能。
・新薬候補化合物の探索研究の効率化に貢献。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

【用語説明】

注1) リンイリド:
プラスの電荷をもつリン原子とマイナスの電荷をもつ炭素原子が隣り合った構造をもつ化合物の総称。
注2) ラジカルイオン・ラジカルカチオン:
通常、分子を構成する電子は2つずつ対になって存在しているが(この状態が安定、全体として偶数の電子)、特定の条件下では不対電子(1つの電子、全体として奇数の電子)で存在する場合がある。この状態にあるイオン性の分子をラジカルイオンと呼び、プラスの電荷をもつラジカルイオンをラジカルカチオンと呼ぶ。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Synthesis
論文タイトル:Photocatalytic carbyne reactivity of phosphorus ylides for three-component formal cycloaddition reactions
著者:鈴木 隆平安藤 大雅Deufel Fritz大松 亨介*大井 貴史* (*は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1038/s44160-024-00612-7
URL: https://www.nature.com/articles/s44160-024-00612-7

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院工学研究科 大井 貴史 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic3/index.html