工学
2024.07.04
窒化ガリウムへの原子層マグネシウム挿入による超格子形成を初観測 ~半導体材料に二次元金属が挿入された初例、電子デバイスの性能向上に寄与~
名古屋大学高等研究院/未来材料・システム研究所の王 嘉 YLC特任助教、天野 浩 教授らの研究グループは、窒化ガリウム(GaN)と金属マグネシウム(Mg)の簡単な熱反応により、独特な超格子注1)構造が形成されることを明らかにしました。これは、初めて単原子層(二次元)の金属が半導体材料に挿入されたことを確認した例であり、半導体ドーピングと弾性力学に関する新たな洞察を提供しています。これにより、P型窒化ガリウムベースのデバイス(発光ダイオード、レーザーダイオード、および電力制御機器)の性能向上が期待され、幅広い分野への応用が見込まれます。
置換型マグネシウム(Mg)原子によるドーピングにより、P型窒化ガリウム(GaN)が実現されて以来、青色発光ダイオードなどの急速かつ持続的な発展が現代生活に大きな影響を与え、カーボンニュートラル社会への貢献が進んでいます。MgはGaNのP型伝導性を生み出す唯一の不純物元素として知られていました。しかし、GaNにおけるMgドーピングの完全なメカニズム、特にMgの低い固溶限とその偏析挙動は依然として不明です。この不確実性は、発光ダイオード、レーザーダイオード、パワートランジスタなどのGaNベースのデバイスの最適化を制限しています。
本研究では、大気圧下でGaN上に金属Mg膜をアニーリングすることにより、Mg挿入GaN型超格子(英:Mg-intercalated GaN superlattices、略:MiGs)が自発的に形成されることを観察しました。これは、二次元金属が半導体材料に挿入された初めての例であり、各Mg単原子層が六方晶GaNの複数の原子層の間に周期的に挿入されています。この独特な挿入メカニズムを「侵入型挿入」と名付け、その特徴は挿入面が母材の格子原子を置換せず、母材原子層の連続性と完全性を保持する点にあります。また、Mg挿入層が母材原子層に垂直な一軸圧縮ひずみを大幅に誘発します。その結果、Mg挿入GaN型超格子内のGaN層は、薄膜材料として記録された中で最も高いものの一つである10%以上の超高弾性ひずみ(20GPa以上の弾性応力に相当)を示します。このひずみはエネルギーバンド構造を変え、圧縮方向に沿った正孔輸送を大幅に向上させます。さらに、二次元Mg層はGaN極性の独特な周期的転移を誘発し、分極電場誘導の空間電荷を生成します。これらの特性は、半導体ドーピングとP型導電性向上に関する新しい洞察を提供するとともに、ナノ材料や金属-半導体超格子および弾性ひずみ工学にも新しい視点をもたらします。
本研究成果は、2024年6月5日付英国科学雑誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。また、2024年7月4日の印刷版に掲載予定です。
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注1)超格子(英: superlattice):
複数の種類の結晶格子を重ね合わせることで、その周期構造が基本単位格子よりも長くなった結晶格子のこと。
雑誌名:Nature
論文タイトル:Observation of 2D-magnesium-intercalated gallium nitride superlattices.(二次元マグネシウム挿入窒化ガリウム型超格子の観測)
著者:王 嘉(名古屋大学 YLC特任助教)、蔡 文韜(名古屋大学 研究員)、卢 卫芳(研究当時 名城大学 研究員)、陸 順(名古屋大学大学院生)、狩野 絵美(名古屋大学 助教)、アグルト, ヴァーダッド C.(大阪大学 特任助教)、 サルカル, ビプラブ(研究当時 名古屋大学 JSPS外国人特別研究員)、渡邉 浩崇(名古屋大学 研究員)、五十嵐 信行(名古屋大学 教授)、岩本 敏志(大阪大学 招へい教授)、中嶋 誠(大阪大学 准教授)、本田 善央(名古屋大学 教授)、天野 浩(名古屋大学 教授)
掲載日(オンライン版): 2024年6月5日
掲載日(印刷版):2024年7月4日 掲載号:Volume 631 Issue 8019
DOI:10.1038/s41586-024-07513-x
URL:https://www.nature.com/articles/s41586-024-07513-x
未来材料・システム研究所 天野 浩 教授、王 嘉 YLC特任教授
http://www.semicond.nuee.nagoya-u.ac.jp/
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