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化学

2024.07.08

プロトン移動アニオン重合の開発に成功 ~簡便に多様なポリマーの精密合成が可能に~

名古屋大学大学院工学研究科の内山 峰人 講師、上垣外 正己 教授らは、塩基触媒存在下でC-H結合からプロトンを引き抜き、アニオンを可逆的に生成させることで、プロトン移動型のアニオン重合を世界で初めて見出し、温和な条件下でのリビングアニオン重合を達成しました。
リビングアニオン重合は、1956年に初めて報告された最初のリビング重合であり、高分子の精密合成と機能材料の発展に大きく貢献してきました。しかし、ポリマー鎖に対して開始剤注7)となる金属試薬が1分子必要なことや、水などのプロトン性化合物を極力除いて反応を行う必要があるなど、制約や条件が厳しいものでした。
本研究では、プロトンとして引き抜かれやすいC-H結合をもつ有機化合物に対して、単純な塩基を触媒量用いることで、アクリル系モノマーのリビングアニオン重合が可能となることを見出しました。ポリマー1分子に対する金属試薬の量が軽減される上、水を完全に取り除く必要はありません。さらに、適切な有機化合物から末端官能性、ブロック、グラフト、星型ポリマーなどの精密高分子が簡便に合成可能であり、持続可能な新規精密高分子合成法として期待されます。
本研究成果は、2024年7月4日付「Nature Chemistry」 誌のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・適切な炭素-水素結合(C-H結合)をもつ有機化合物に、単純な金属塩基を触媒量用いることで、温和な条件下でアクリル系モノマー注1)のリビングアニオン重合注2)を達成した。
・重合反応は、C-H結合から塩基存在下でプロトン引き抜きが可逆的に起こることで、プロトン移動型の新しいアニオン重合機構で進行することが分かった。
・従来のリビングアニオン重合に比べて、ポリマー鎖1分子当たりの金属試薬量が軽減されると共に、重合系から水を厳しく取り除く必要がないことが明らかとなった。
・種々のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリルアミドなど広範囲のアクリル系モノマーに適応可能であった。
・適切な有機化合物を用いることで簡便に、末端官能性ポリマー注3)、ブロックポリマー注4)、グラフトポリマー注5)、星型ポリマー注6)などの精密高分子合成が可能であった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)アクリル系モノマー:
炭素-炭素二重結合(C=C)に、エステル(C(=O)O)、アミド(C(=O)N)、ニトリル(C≡N)などの極性の多重結合から成る置換基が結合した化合物であり、ラジカル重合やアニオン重合により重合されるモノマーで、そのポリマーは幅広くさまざまな用途に利用される。
注2)リビングアニオン重合:
アニオン重合は、負電荷のアニオンを生長種として進行する重合反応。リビング重合は、生長種が失活しないで進行する重合反応で、ポリマーの分子量制御や高分子の精密合成を可能とする。リビングアニオン重合は、アニオン生長種で重合が進行するリビング重合。
注3)末端官能性ポリマー:
ポリマーの末端に官能基をもつポリマーであり、官能基に特有な性質や反応性を活かした機能性高分子材料設計に用いられる。
注4)ブロックポリマー:
異なるポリマー鎖がブロックとしてつながった共重合体であり、それぞれのポリマー鎖の性質やお互いの成分が混ざり合わない性質などを利用して機能性高分子材料として用いられる。
注5)グラフトポリマー:
あるポリマー鎖に異なるポリマーが枝のように何本もグラフト化されたポリマーであり、分岐構造を活かした機能性高分子材料として用いられる。
注6)星型ポリマー:
直鎖状枝ポリマーが片方の末端同士で多数結合した分岐構造をもつポリマーであり、その形状に基づく機能性高分子材料として用いられる。
注7)開始剤:
モノマーと反応して重合反応を開始する試薬。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Chemistry
論文タイトル:Proton transfer anionic polymerization with C-H bond as the dormant species
(C-H結合をドーマント種とするプロトン移動アニオン重合)
著者:M. Uchiyama(講師)、N. Ohira(大学院博士前期課程学生(研究当時))、K. Yamashita (大学院博士前期課程学生(研究当時))、K. Sagawa(大学院博士前期課程学生)、M. Kamigaito(教授)
DOI: 10.1038/s41557-024-01572-3
URL: https://doi.org/10.1038/s41557-024-01572-3

 

【研究代表者】

 大学院工学研究科 内山 峰人 講師上垣外 正己 教授
http://chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/polymer2/index.html